論理学、集合論、写像、位相空間など数学基礎論を独学できる大学レベルの定番の教科書

数学が考察する対象、数にしても空間上の点にしても、全て集合であって、公理的集合論が数学の「基礎」の部分にあるという理解が、高校数学から大学で学ぶ数学へのギャップを越えるためにまず大事なんだろうと思います。現代数学は集合論に基づいて組み立てられているので、現代集合論の本=数学基礎論ということになろうかと思います。

論理学、集合論、写像、位相などが、大学レベルの数学の基礎だと思いますので、それらが独学できそうな教科書のメモを作っておきます。論理、集合、位相の入門書・教科書は本当にたくさん書かれていて、どれを選ぶべきか迷います。自分の数学リテラシーに合ったものに取り組まないと数行で挫折しそう。

 

「集合と位相」をなぜ学ぶのか

書籍タイトル:「集合と位相」をなぜ学ぶのか ― 数学の基礎として根づくまでの歴史

著者:藤田 博司、出版社:技術評論社、出版年月日:2018/3/6

集合とか写像とかの講義ノートを読んでいても、一見当たり前そうなことをちまちまと定義に戻って証明していくのが、退屈で仕方ありません。勉強するモチベーションが湧きにくいし、湧いてもすぐにくじけてしまうのです。そんなときに、図書館の数学書の棚にあったこの本を手に取って読んでみて、感動してしまいました。

今でこそスッキリとまとまっている理論ですが、当時の一流の数学者たちが苦労してあーでもない、こーでもないと言って作り上げてきたものが、この数学の基礎論なんだということを教えてくれる本です。当時何が問題だったのか、誰がどんなことを考えて何を見出したのかが、ざっくりとですが解説されていて、非常に興味を持って読みました。

まずはこの本を読んでみるのが良いと思います。数学基礎論の世界が概観できますし、学びたいという欲求が生じます。何よりも、偉大な数学者が苦労して作り上げたものなので、そんな簡単に理解できなくても当然という気持ちになれます。

 

論理・集合と位相空間入門

栗山 憲『論理・集合と位相空間入門』2012年4月10日 共立出版(アマゾン

目次

  1. 第1章 論理 1.1 命題論理 1.2 述語論理
  2. 第2章 集合 2.1 集合の基本 2.2 集合族 2.3 直積 2.4 商集合
  3. 第3章 写像 3.1 写像の基本 3.2 写像の合成
  4. 第4章 濃度 4.1 濃度の基本 4.2 濃度の大小
  5. 第5章 1次元ユークリッド空間R 5.1 実数 5.2 1次元ユークリッド空間R 5.3 R上の連続関数
  6. 第6章 距離空間 6.1 Rk上の距離 6.2 距離空間 6.3 距離空間から距離空間への連続写像
  7. 第7章 位相空間 7.1 近傍の公理 7.2 開集合の公理 7.3 位相空間から位相空間への連続写像
  8. 第8章 コンパクト空間 8.1 コンパクト集合 8.2 連続写像

図書館で借りて読みましたが、とても親切に書かれた教科書です。他書だとすっとばしてもっと少ないページ数で解説が終わりそうなところを、とてもゆっくりと解説してくれます。初学者にとても優しい本。最後の章がコンパクト空間なので、この本の到達目標がそこということなのでしょう。後半が位相空間の話なので、前半の集合論は後半への準備と考えるならば、全体として位相空間の本という印象を受けました。

この本はとても気に入ったので、自分で買って読みました。余白に途中の計算をしたりして、とにかく自分で手を動かして読むようにしています。「濃度」あたりでだんだんしんどくなってきましたが、一冊読み切り価値がある本だと思います。

 

集合・写像・数の体系

尾畑 伸明『集合・写像・数の体系 数学リテラシーとして』 2019/3/1 牧野書店

絶版で古書も手に入らないのがとても残念。牧野書店がなくなっちゃったためみたいですね。どこかの出版社に復刊してほしい。著者のウェブサイトで講義録として、部分的には同じ内容が読めるようです(https://www.math.is.tohoku.ac.jp/~obata/student/subject/file/ 2018年度の講義録)。自分はこの講義録の丁寧な説明と、先に進むテンポ感がとても自分に合うような気がして気に入りました。

目次

  1. 第1章 命題と論理 1.1 命題と論理演算 1.2 論理演算の基本法則 1.3 推論 1.4 述語論理
  2. 第2章 集合 2.1 集合と元 2.2 集合の包含関係 2.3 ラッセルのパラドックス
  3. 第3章 集合の演算 3.1 和集合と積集合 3.2 差集合と補集合 3.3 集合の公理
  4. 第4章 写像 4.1 写像の定義 4.2 写像の演算と諸性質 4.3 合成写像 4.4 逆写像 4.5 集合系
  5. 第5章 同値関係 5.1 関係 5.2 同値関係
  6. 第6章 有限集合 6.1 元の個数 6.2 和集合 6.3 有限集合と写像 6.4 直積集合
  7. 第7章 可算集合 7.1 濃度の等しい集合 7.2 可算集合 7.3 可算集合と写像 7.4 可算集合の直積
  8. 第8章 非可算集合 8.1 実数の区間 8.2 非可算集合
  9. 第9章 濃度の比較 9.1 濃度の比較 9.2 カントル−ベルンシュタインの比較定理
  10. 第10章 濃度の算法 10.1 濃度の相等と大小 10.2 濃度の和 10.3 濃度の積 10.4 濃度のべき 10.5 可算濃度と連続体濃度
  11. 第11章 選択公理 11.1 集合系の直積 11.2 選択公理 11.3 可算集合の性質 11.4 無限集合
  12. 第12章 順序集合 12.1 順序関係と順序集合 12.2 順序同型 12.3 ツォルンの補題
  13. 第13章 整列集合 13.1 整列集合 13.2 整列集合の基本定理 13.3 整列可能定理
  14. 第14章 順序数 14.1 順序型としての順序数 14.2 順序数の演算 14.3 順序数の定義
  15. 第15章 自然数 15.1 ペアノの公理 15.2 ペアノの公理の完全性 15.3 自然数の加法・乗法・順序 15.4 自然数の構成
  16. 第16章 整数・有理数・実数 16.1 整数 16.2 有理数 16.3 実数

自分が大学で論理学などの講義を受けたのは何十年も前のことなので記憶が定かではないのですが、1学期間受けた論理学の授業内容は、まさにこの本の順番だったような気がします。集合論を延々と、ごにょごにょやって、終盤になってスピードアップして自然数、有理数、などをさっさと構成してみせる内容だったような。先生が授業中に、ペアノとかZFCとかいう言葉を頻繁に口にしてたなーくらいの記憶しかありません。なので、この教科書には非常に親近感を覚えます。青春時代の忘れものを取りに行こうかみたいな。

自分の場合、この著者のウェブサイト上にあった講義録がとてもわかりやすくて手を動かしながら読み進めていたことと、ウェブ上には見当たらなかった後半の数の構成の章まで読みたかったことから、図書館で借りて読み、その後たまたま本屋で見つけられたので即買いました。

 

手を動かしてまなぶ 集合と位相

藤岡 敦『手を動かしてまなぶ 集合と位相』2020年8月 裳華房

手を動かして学ぶというくらいなので、数学の教科書を手を動かして行間を埋めながら読むことに慣れていない初学者向きなのだと思います。

書店(三省堂)の店頭で立ち読みしただけですが、穴埋め問題みたいに四角形がたくさんならんでいて、さながら大学入試問題集みたいなかんじがしました。合う人は合うでしょうが、じっくりと腰を据えて数学書を読み込みたいという人には向かないかも。

目次 1.集合 2.写像と二項関係 3.濃度と選択公理 4.ユークリッド空間 5.距離空間(その1) 6.位相空間 7.連結性とコンパクト性 8.距離空間(その2) 9.分離公理とコンパクト性の一般化

詳細目次  『手を動かしてまなぶ 集合と位相』 目次 序文 (pdfファイル) 全体の地図 (pdfファイル) 1.集合 §1 集合の定義 §2 集合の演算 §3 全体集合 2.写像と二項関係 §4 写像 §5 全射,単射と合成写像 §6 集合系と集合族 §7 二項関係 §8 商集合とwell-definedness 3.濃度と選択公理 §9 濃度 §10 ベルンシュタインの定理 §11 整列集合 §12 選択公理 4.ユークリッド空間 §13 ユークリッド距離 §14 ユークリッド空間の開集合 §15 ユークリッド空間の閉集合 5.距離空間(その1) §16 距離空間の定義 §17 距離空間の開集合と閉集合 §18 距離空間の間の連続写像 §19 距離空間の近傍 6.位相空間 §20 位相空間の定義 §21 位相空間の間の連続写像 §22 基本近傍系 §23 位相の生成 §24 誘導位相 7.連結性とコンパクト性 §25 弧状連結空間と連結空間 §26 連結成分 §27 コンパクト空間 §28 チコノフの定理 8.距離空間(その2) §29 完備距離空間 §30 コンパクト距離空間 §31 距離空間の完備化 9.分離公理とコンパクト性の一般化 §32 ハウスドルフ空間 §33 正則空間と正規空間 §34 局所コンパクト空間 §35 パラコンパクト空間 §36 位相空間のコンパクト化

 

集合・論理と位相

新井 敏康『基幹講座 数学 集合・論理と位相』 2016/11/10  東京図書  基幹講座 数学 編集委員会 (編集)

三省堂の店頭でパラパラと見ただけですが、他の教科書との決定的な違いは、具体的な話を先にして、あとから抽象化するという論理展開で書かれていることです。これは、初学者にとっていきなり抽象的な話からされてもツラいだけなのでという配慮。そのため、2度手間になって説明が繰り返しになる恐れがありますが、わかりやすさ重視であえてその方針で書かれたとのことがまえがきにありました。なので、最初の一刷としてはこの本は非常に良い選択になるのではないかと思います。抽象的な議論が隙無く、美しくまとめられた本や、初めて読む教科書としては適していないのではないかと自分は思います。

 

例題形式で探求する集合・位相

丹下 基生『例題形式で探求する集合・位相: 連続写像の織りなすトポロジーの世界』 (SGCライブラリ) 2020/11/25  ‎ サイエンス社

A4サイズの、雑誌の増刊号みたいな体裁の本です。章ごとに簡潔な説明があり、そのあとは例題と回答(証明)が延々続く構成。集合や位相の教科書を一読したあと、自分の理解度を確認するために読む本としてはとてもいいのではないかと思います。教科書を読み終わっていないのに、本屋(ジュンク堂書店)で見かけて衝動買いしてしまいました。

 

集合と位相

内田 伏一『集合と位相』(増補新装版)(数学シリーズ) 2020/3/14 裳華房

三省堂でパラパラみただけなのですが、標準的な教科書と言った風情で、読むのには忍耐が要りそうです。初版は1986年11月5日刊行で、本文はそのままで、問題の解答を充実させた新装版だそう。初版時の裳華房の「数学シリーズ」は、稲垣宣生『数理統計学』(改訂版)を図書館で借りて読みましたが、勉強しやすそうな編集方針だと感じました。

 

集合・位相入門

松坂和夫『集合・位相入門』 (松坂和夫 数学入門シリーズ 1) 2018/11/7 岩波書店

 

集合と位相空間

森田 茂之『集合と位相空間』2002/6/10 朝倉書店

初学者向けではないと思うが、アマゾンのレビューが高くて気になる本。
(アマゾン)

超限集合論

カントル 超限集合論 (現代数学の系譜 8) G.CANTOR 集合論の始祖とされるカントール。無限集合の濃度に関する連続体仮説、一般連続体仮説が有名

 

集合論

ケネス・キューネン 集合論―独立性証明への案内 Set Theory An Introduction To Independence Proofs

 

数学基礎論講義

ケネス・キューネン キューネン数学基礎論講義 The Foundations of Mathematics

 

The Axiom of Choice

Thomas J. Jech. The Axiom of Choice (Dover Books on Mathematics) 2008/7/24 選択公理に特化した、公理的集合論の教科書だそうです。

Lectures in Set Theory

Thomas J. Jech. Lectures in Set Theory: With Particular Emphasis on the Method of Forcing (Lecture Notes in Mathematics (217))

 

現代集合論入門

竹内 外史『現代集合論入門』 (日評数学選書)1989/12/1

 

数学の基礎

齋藤 正彦『数学の基礎―集合・数・位相 (基礎数学)』2002/8/1

コーシー列をもとにした完備化とでデデキントの切断による完備化が同じであることの証明が載っているそう。

 

数学基礎論入門

前原昭二『数学基礎論入門』1977年朝倉書店

証明論の本。証明するというのがどういうことかが解説される。ゲーデルの不完全性定理の証明がある。

 

Set Theory and the Continuum Hypothesis

Paul J. Cohen Set Theory and the Continuum Hypothesis (Dover Books on Mathematics) 2008/12/9 集合論と連続体仮説 カントールの連続体仮説に対する一つの解答を与えたコーエンの本。

 

ゲーデルに挑む

田中 一之『ゲーデルに挑む: 証明不可能なことの証明』 2012/4/28 ゲーデルの原著論文を読むための、論文+解説の書。

 

整数論講義

ディリクレ デデキント 整数論講義 (現代数学の系譜 5) P.G.L.DIRICHLET, J.W.R.DEDEKIND

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