ツァピンスキ&コップ『測度と積分 入門から確率論へ』

統計学の勉強をしようと思って統計学の教科書をいろいろ見ていたら、統計学をちゃんとやるには測度論からやる必要があるみたいな記述を見て、測度論って何?と思っていたらそれはルベーグ積分のこと(?)らしくて、ルベーグ積分のわかりやすい教科書を探しているうちに、ツァピンスキ&コップ『測度と積分 入門から確率論へ』という本を知りました。

培風館からの出版で、2008年7月10日初版発行です。図書館で借りてみて、いい本だから手元にもっておくために買おうかと思ったら、絶版でした。古本でも手にはいらないようです。メルカリで¥66,666(税込) 送料込みで売られていたり、他のサイトでも26,474円もするなど、異常に高騰しています。定価は税込 4,180 円なんですけどね。ルベーグ積分の教科書(別記事)としてはピカ一ではないかと思います。

大学図書館の蔵書検索によれば、大学図書館所蔵 97件という結果でした。復刊ドットコムでの投票は10件しかなくて、いまひとつ盛り上がっていないのが残念。

測度と積分 入門から確率論へ 復刊ドットコム

本書の内容

測度と積分という本のタイトルにはルベーグと言う言葉がないのですが、この教科書で取扱われる主な内容は、ルベーグ測度およびルベーグ積分です。

  • 1.動機と準備
    • 1.1 記号と集合論の基礎
    • 1.2 リーマン積分:適用範囲と制限
    • 1.3 ランダムに数を選ぶとは
  • 2.測度
    • 2.1 零集合
    • 2.2 外測度
    • 2.3 ルベーグ可測集合とルベーグ測度
    • 2.4 ルベーグ測度の基本的性質
    • 2.5 ボレル集合
    • 2.6 確率
    • 2.7 命題の証明
  • 3.可測関数
    • 3.1 実数直線の拡張
    • 3.2 ルベーグ可測関数
    • 3.3 例
    • 3.4 性質
    • 3.5 確率
    • 3.6 命題の証明
  • 4.積分
    • 4.1 積分の定義
    • 4.2 単調収束定理
    • 4.3 可積分関数
    • 4.4 優収束定理
    • 4.5 リーマン積分との関係
    • 4.6 可測関数の近似
    • 4.7 確率論
    • 4.8 命題の証明
  • 5.可積分関数の空間
    • 5.1 L1空間
    • 5.2 L2ヒルベルト空間
    • 5.3 LP空間:完備性
    • 5.4 確率論
    • 5.5 命題の証明
  • 6.積測度
    • 6.1 多次元ルベーグ測度
    • 6.2 積σ‐加法族
    • 6.3 積測度の構成
    • 6.4 フビニの定理
    • 6.5 確率
    • 6.6 命題の証明
  • 7.ラドン−ニコディムの定理
    • 7.1 密度と条件
    • 7.2 ラドン−ニコディムの定理
    • 7.3 ルベーグ−スティルチェス測度
    • 7.4 確率
    • 7.5 命題の証明
  • 8.極限定理
    • 8.1 収束の種類
    • 8.2 確率
    • 8.3 命題の証明

(参照サイト:honto)

想定される読者

この本の特徴は前書きにもありますが、独学者が自習できるように書かれていることです。第二版への序文に、「我々はこの改訂でも、この教科書の本質的な性格である、厳密で、しかも自習に適切な形で素材を提供する、という方針を保つことができたものと期待している。」と著者が述べています。

数学の教科書は、解析概論の前書きにもありましたが、数学者が無駄なく論理展開するタイプのものと、初学者が読めるようにわかりやすくかみ砕いた説明をしてくれるタイプのものと、2種類あります。前者のタイプの教科書は、将来数学者になるような人か、一度勉強した人が細かい議論をきっちりとさせておきたい場合に読むための本でしょう。右も左も分からない人が初めて読むのであれば、やはりそういう学生を意識してわかりやすく説明してくれる本のほうが断然良いと思います。それと、自分の理解力のレベルに合った本を選ぶことが大事。

著者が前書きで述べているように、この本は数理ファイナンスを学ぶ学生に広く読まれているそうです。そのため、この本は数理ファイナンスの教科書ではないが数理ファイナンスの話題が触れられているという特色があります。

本書の特徴として読み始めてすぐに気付くことは、動機付けがしっかり書かれている点だと思います。最初に集合の操作のおさらいがあり、集合の演算に特有な記号の説明があるのがありがたい。他書やネット上の講義ノートの場合、集合の演算の記号が見慣れないため本論に入る前に自分は挫折したもので。また、リーマン積分の限界となる点が具体的に説明されていて、ルベーグ積分を学ぶ強い動機を与えてくれます。また確率の話になぜルベーグ積分が必要となるのかという説明も第1章の最後に説明されていて、場合の数を数え上げて比をとって確率とする高校数学のやり方では、無限をどう数えるかという問題の前には無力だったことに気付かされました。

ルベーグ積分の定評ある教科書はいくつも刊行されていますが、数学を専門としない他分野の学生に数学の面白さを真っ当に伝えてくれるような教科書にはなかなかお目にかかりません。ツァピンスキ&コップ『測度と積分 入門から確率論へ』は、読んでいて感動を覚えるレベルの、説明のわかりやすさ、説明の上手さがあると思います。というか、なぜほかの先生はこういう教え方をしてくれないんだろう。。そしてなぜこのような良書が絶版になっているんだろう。読むとすれば、大学の図書館で借りるか、原書を買うしかなさそう