桜井 博志 『勝ち続ける「仕組み」をつくる 獺祭の口ぐせ』 2017/5/18 KADOKAWA

つぶれかけた酒造メーカーを引き継いだ著者の奮闘記。優秀な杜氏に辞められてしまい、じゃあ、自分たちで作ろうとシロウト集団が、しかし、徹底的に科学的に酒造りを分析して、最高の日本酒を作り上げたというストーリー。あのジョエル・ロブションと組んでパリに日本レストランを開店するレベルにまで持っていったというのですから驚きです。日本酒の品評会で金賞を取るようなお酒は、酒造メーカーでつくられたベストオブベストを出品しているため、量がないのでそれが市場に出ることはないという裏事情が明かされます。桜井博志は、お客さんの口に入らないのは意味がないとして、品評会にだすお酒も通常の市場に出荷するロットから抜き出して出品するのだそうです。おいしいお酒をつくるのは、美味しいお酒をお客さんに飲んでもらうため、という非常につよい信念があります。

人間としての生き方、もの作りのやりかた、ビジネスのやり方、いろいろな面で刺激に満ちた本です。杜氏の勘や経験に頼らないで、科学的にお酒をつくったというスタイルは、今、世界トップレベルの囲碁の棋士や将棋の棋士が人工知能の前に敗れ去っていることを思い起こさせました。人間が築き上げてきたものが必ずしも最適なものとは限らないという、衝撃を与えてくれます。

とにかく常識の破り方が、想像を絶しています。

杜氏がいない。勘や経験を排し、お酒造りの工程すべては科学的に測定され、管理されている。なので、”誰でも”できる。

通常1年に一度しか仕込みの時期がないのに、この酒造メーカーは通年、お酒を作り続けていて、季節とは無関係。

大吟醸は29%精米(71%もそぎ落としている!)のラインアップも作っている。

地元での業界下位ランクという固定された評判を打破するために、新しいブランド「獺祭」をひっさげて東京に進出し日本で1番になった。

 

勝ち続ける「仕組み」をつくる 獺祭の口ぐせ 「常識を変えろ!」世界で売れる日本酒「獺祭」をつくった経営者の思考法 著者 桜井 博志 定価 1,512円(本体1,400円+税)発売日:2017年05月18日

出版社ウェブサイト

勝ち続ける「仕組み」をつくる 獺祭の口ぐせ(アマゾン)

書籍化されたものも多数ありますが、雑誌などにも多数取り上げられており、オンラインの記事として読めます。

ダイヤモンド社書籍オンライン 桜井博志 『逆境経営』

  1.  【第1回】 2014年1月10日 変えるべきでない伝統を守り抜き大事なものを守るための変化は恐れない: 私たちがお出ししているお酒の銘柄はただひとつ、この<獺祭>しかありません。 .. 「どうやら旭酒造は潰れそうだ」と経営難を聞きつけて、酒造りを総括する杜氏がいなくなった。じゃあ、私と社員だけで「手本書(マニュアル)」どおりに酒を造り、可能な限り数値化して品質の安定化をはかろうじゃないか。そこには、経営美学もマーケティングもありません。いかにして目の前の危機を切り抜けるかーーその連続でしかなかったのです。そこにあった唯一の思いは、ただひとつ。「ああ、美味しい」と言っていただける酒を造ることでした。 .. 酒造りは本当に面白い。私には、酒蔵以外に取り柄はありません。
  2. 【第2回】 2014年1月14日 従来策のテコ入れは既存路線の延長にすぎない: この大ヒットに気をよくした私は、ワンカップならぬ紙カップ(180ml)も作りたい、と目論見ました。 ただ、紙カップは1800ml詰めのような安い充填機がありません。当時の私たちに、1000万円以上もする高価な機械を購入する余裕はありませんでした。 ところが、よく調べてみると、紙カップというのはカップの内面に樹脂が塗られて、そこへアルミのフタをのせて熱を当てると蒸着される構造でした。 「そうや、アイロンや! アイロンでつけたらいいんや! 機械なんかいらん!!」 1000万円の機械の代わりに、数台購入したアイロンと、暇を嘆いていた瓶詰め担当の女性たちが活躍してくれました。こうして紙カップに充填できるようになり、一時は1800ml紙パックと180ml紙カップで、旭酒造の全出荷量の2割を占める勢いでした。
  3. 【第3回】 2014年1月15日 「普通」はすなわち「負け」である
    品質からいうと、初めて完成した酒は何とも珍妙な、大吟醸とはいえそうにない味がしました。 さっそく造った酒については、山口県の食品工業技術センターや、お隣の広島県国税局鑑定官室という酒の技術指導をするところにも意見を聞きに行きました。「この酒は、貯蔵しても良くなることはないだろう」と指摘され、そのころ流行り始めていた、熱殺菌しない「生酒」として売ることにしました.
  4. 【第4回】 2014年1月16日 品質の良さは新鮮な「見た目」で表す!従来の「旭富士」から「獺祭」に銘柄を統一: 「獺祭」というのはそもそも、書物や参考資料を広げて、詩文を練っている姿を意味します。その姿が、捕獲した魚を河原に並べるカワウソの習性を思い起こさせるからだそうです。.. また、「獺」という漢字は、旭酒造が位置する「獺越(おそごえ)」という地名の一字と同じです。地名の由来は「川上村に古い獺がいて、子どもを化かして当村まで追越してきた」(出所:地下上申)ことにあるそうですが、なんといっても読みにくい。
  5. 【第5回】 2014年1月17日 「完全なる日本」で世界を魅了したい!今夏のパリ出店に懸ける思い: 大変異例なことのようですが、ロブション氏本人も参加してくれました。ロブション氏は以前から獺祭のことをよくご存じで、パリの日本酒事情を取材に来た日本人記者に「獺祭を取材してみては」と薦めてくれたことがあったほどです。
  6. 【第6回】 2014年1月20日 商品は王道を歩ませ、安易にブレない!「みんなが大好き」な品質を追求する:  旭酒造は過去に、地元・山口県で大手や地元の有力酒蔵に負け続け、だからこそ東京へ進出しました。狭い市場でシェア競争をやっても勝てないことは、身に染みています。 ならば、東京をはじめとする国内の大消費地の次は? 海外へ出て行こう。そう考えるのが普通です。
  7. 【第7回】 2014年2月14日 日本酒という文化を自問しながら<獺祭>は新時代の賭場口に立っている: 私たちの昨年度の生産量は一升瓶換算で114万本と、純米大吟醸ではかつてないほど大きな支持を頂いています。でも、他から大きなシェアを奪ってきた結果という感じはしません。どうやら、<獺祭>は新しい飲み方をして頂いていて、今までと違う市場を開拓しつつある、新たな時代の賭場口に立っているのかなという気がしています。
  8. 【第8回】 2014年2月27日 ロンブー淳さんの経験のように、<獺祭>は日本酒が身近になる“きっかけ”でありたい: あるとき、映画『エヴァンゲリヲン新劇場版:序』を観ていたら、(主要な登場人物)ミサトさんの自宅に日本酒が置いてあって、ラベルに<獺祭>と書かれていたんです。
  9. 【第9回】 2014年3月24日 「獺祭」の開発コンセプトで参考にした無印良品というブランド構築の舞台裏
  10. 【第10回】 2014年3月26日 ビジネスの仕組みを変えれば働く人の意識が変わる!「獺祭」が学ぶ、無印流“意識改革”の神髄
  11. 【第11回】 2014年5月12日 伝統産業であっても、伝承産業ではいけない 革新を追い続けることこそ日本酒の伝統だ: 来日したオバマ米大統領に、安倍晋三首相が手土産として渡したことでも話題となった、純米大吟醸<獺祭>。 .. 新たな試みでいえば、私たちは<獺祭 試>という低アルコール製品の3回目の仕込みが終わったところです。これは文字通り、実験的商品で、旭酒造にとって新たな酒の世界を切り開く意味を持っています。
  12. 【第12回】 2014年5月23日 海外事業はストレスの元凶そのものだが伝統から革新につながる何かが生まれる:特に新入社員を見ていて、学校にスポイルされて来てるんだなあと感じるんですよ。だから、彼らには必ず3つのことを言います。 第1に、この社会はカンニングありだから、分からなかったら調べたり、どうしても100メートル競走で勝ちたいなら前日に10メートル先に行く準備をしておくこと。第2に、敗者復活戦は必ずあるから、まだまだ取り戻せるということ。第3に、体育会系の子も多いので、スポーツでは反則スレスレのプレーがあるけど、一般社会で法律に触れないギリギリならいい、というのは許されないし、旭酒造では受け入れられないから改めろ、ということ。入社を機に、新たな気持ちでやる気になってもらいたいと思っています。
  13. 【第13回】 2014年6月25日 “〆切”とかけて、“獺祭”と解く。その心は……「日本人にしか守れない」 
  14. 【第14回】 2015年3月5日 キラリと光るオトコの“目利き”大石静さんに聞く 「美味しいお酒」に通じる“伸びる男”の見極め方 :  でも杜氏に関してはこちらからお役御免としたわけではなく、先方がFA(フリーエージェント)宣言をして、出ていってしまったというのが真相です。一瞬たじろぎましたけど、いや待てよ、ちょうどいい機会だな、と。 .. あと私、運はいいです(笑)。
  15. 【第15回】 2015年12月8日 日本の食と酒をもっと世界へ! BEEF×SAKEの意外かつ最強コラボが実現 : 先日11月4日にもニューヨークで、「獺祭の会」を催したところ、90ドルの会費制にもかかわらず150名にのぼるお客さまに参加していただきキャンセル待ちも出るほど大盛況でした。ニューヨークの方たちがここまで獺祭を求めてくれることに驚いたのと同時に、まだまだ海外に獺祭を広めていける可能性があるという手応えを感じました。
  16. 【第16回】 2016年3月3日 給料は下げられないと思うから上げられない?!現在の貢献度に報いる評価・報酬制度の逆転発想:実は旭酒造でも昇給制度を変えたばかりなんです。右肩上がりで定年まで給料が上がっていくのではなく、貢献している若い人に手厚く出せるように40歳までの昇給率を高くしました(年率3%で60歳まで基本給が増える旧制度を廃し、同5%で40歳で基本給が最高になり、その後は横ばいとなる新制度に2016年2月から移行。生涯賃金は従来より5%増える。正社員110人のうち約9割が対象)。
  17. 【第17回】 2016年3月8日 表面的にお客様に合わせた魅力は長続きしない 自分たちのこだわりを評価してくれるお客様を探す  :父が亡くなった後に戻って継ぎましたから、孤独な面もありましたけど自由に変えられたのは良かったですよね。もちろん試行錯誤でしたけど、父が存命だったらできなかったことも多かったと思います。だから、罰当たりな言い方ですけど、父があと4年長生きしていたら、この会社はなかっただろうなと。親不孝ですが。
  18. 「逆境経営 ~山奥の地酒「獺祭」を世界に届ける逆転発想法~」記事一覧

 

伝統的な蔵元は杜氏に依存し、大手企業は最新の巨大な装置で酒をつくります。私たちは、「酒造りの素人」であることを逆手に取り、質を保てる製法を考えました。仕込みは3,000リットルと5,000リットル単位で小型化しています。このサイズだとタンクの上、中、下の様子が把握できるので、安定した品質を保つことができるのです。

「獺祭」は東京のプライベートブランドのつもりで作りました。従来のブランドではどうしても地元・山口県内第四位のイメージがあるからです。(獺祭の社長が語る 逆境こそ改革のチャンス IT経営マガジン2014年 秋号 COMPASSONLINE 2016.03.04)

 

競争相手は同業者ではありません。原材料である酒米の生産量を増やしたくても増やせない農政や高い輸出関税に代表される各種「規制」、そして、私たちの中にある常識や慣習といった「既成概念」──これこそが「競争相手」であるといえます。(獺祭の社長が語る 競争相手は規制、既成概念 IT経営マガジン  2014年 夏号 COMPASS ONLINE 2016.03.01)

 

洗米という米を水洗いする行程では、米の重量、洗う時間、水温などをすべて数値で計測し、米に吸収される水分量を0.2%以下の精度で調整できるようにしています。その日の気温によって少しずつ状況は変わりますので、数値を記録しながらその日に最適な条件にできるようにしています。ほかにも、醗酵の期間中には、さまざまなデータ(アルコール度数、日本酒度、糖度など)を毎日計測し、それをすべて手書きでグラフにしています。毎日、その日に記録したデータから醗酵の進み方を分析して、次の日の温度管理などを判断しています。獺祭では年間に900本という非常に多い本数の仕込みを行っていますので、繰り返しやっている中で「理想的な数値」がわかってきました。

決して社員に不利益なことをしない、という行動を続けていくことができれば、社長が少々無理な判断をして飛ぶときでも、社員がついてきてくれる。
杜氏のいない「獺祭」、非常識経営の秘密 データ分析による集団体制で日本酒を造る 東洋経済 ONLINE 2014年07月13日)

 

原料になる米に、酒の原料として最適な山田錦ではなく、コシヒカリが混じっていたことがありました。DNA検査でわかったんです。突き返せば取引先との今までの信頼関係にもヒビが入るし、4000俵という量でしたから、酒の生産量にもひびきます。それでも“本物”でありたい、旨い酒を作りたいという思いがあり、受け取ることはできませんでした。(朝日新聞DIGITAL トップランナーインタビュー vol.1 努力とチャレンジ精神が作った純米大吟醸「獺祭」の人気は、とうとう海を超える。 旭酒造会長 桜井博志さん)

またテレビそのた映像メディアにも多数出演されています。

桜井博志 旭酒造社長 2013.6.10 (記者会見動画1:08:43 https://www.youtube.com/watch?v=x2hu3M5XBQc)

ウェブサイト

  1. 旭酒造株式会社|〒742-0422 山口県岩国市周東町獺越2167-4