林田 学 『情報公開法 官民の秘密主義を超えるために』中公新書1573 2001年2月25日発行

著者は1956年(昭和31年)生まれ。法学博士。

内容のメモおよび調べたこと。

  1. 2001年4月より日本でも情報公開法がスタート。
  2. ディスカバリとは、日本でいう「文書提出命令」のこと。

 

アメリカの情報自由法に関するクリントン大統領の就任直後の覚書が紹介されていました(2ページ)。日本語で引用されていたのですが、原文を見つけたので転載しておきます。情報公開がいかにアメリカにおいて重要視されてきたかを物語るものです。


THE WHITE HOUSE

WASHINGTON

October 4, 1993

MEMORANDUM FOR HEADS OF DEPARTMENTS AND AGENCIES

SUBJECT: The Freedom of Information Act

I am writing to call your attention to a subject that is of great importance to the American public and to all Federal departments and agencies the administration of the Freedom of Information Act, as amended (the “Act”). The Act is a vital part of the participatory system of government. I am committed to enhancing its effectiveness in my Administration.

For more than a quarter century now, the Freedom of Information Act has played a unique role in strengthening our democratic form of government. The statute was enacted based upon the fundamental principle that an informed citizenry is essential to the democratic process and that the more the American people know about their government the better they will be governed. Openness in government is essential to accountability and the Act has become an integral part of that process.

The Freedom of Information Act, moreover, has been one of the primary means by which members of the public inform themselves about their government. As Vice President Gore made clear in the National Performance Review, the American people are the Federal Government’s customers. Federal departments and agencies should handle requests for information in a customer-friendly manner. The use of the Act by ordinary citizens is not complicated, nor should it be. The existence of unnecessary bureaucratic hurdles has no place in its implementation.

I therefore call upon all Federal departments and agencies to renew their commitment to the Freedom of Information Act, to its underlying principles of government openness, and to its sound administration. This is an appropriate time for all agencies to take a fresh look at their administration of the Act, to reduce backlogs of Freedom of Information Act requests, and to conform agency practice to the new litigation guidance issued by the Attorney General, which is attached.

Further, I remind agencies that our commitment to openness requires more than merely responding to requests from the public. Each agency has a responsibility to distribute information on its own initiative, and to enhance public access through the use of electronic information systems. Taking these steps will ensure compliance with both the letter and spirit of the Act.

WILLIAM J. CLINTON


  1. Freedom of Information Act (FOIA)
  2. Making a FOIA Request (Georgetown Law)
  3. 「情報は民主主義の通貨である」消費者運動家 ラルフ・ネーダー
  4. アメリカの行政機関の情報開示請求は日本人でも外国人でもできる!
  5. FOIAを使わなくても一定の情報はFedeeral Register(連邦公示録)(https://www.federalregister.gov/)に掲載されていたり、Reading room(閲覧室)で閲覧可能であることがある。各連邦省庁のサイト上にElectronic reading roomが設けられている。

本書はまずアメリカの情報公開制度に関して紹介しており、第一部 まずアメリカを見る が、本書の前半の半分が費やされています。後半の、第二部 ひるがえって日本を見る (93ページ~)になってようやく日本の話になります。120ページから、不開示事由(じゆう)の説明があります。事由というのは聞きなれない言葉ですが、法律用語のようです。物事が起きた、その理由という意味らしいです。不開示事由というのは、不開示という決定がなされたその理由ということでしょう。「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」には、「第五条 行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない。」と書いてあります。基本的には開示しなければならないが、開示しなくてよい場合が項目の列挙に示されているわけです。不開示にできるのはどのような場合かというと、


第五条 行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない。

一 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等 、、、、

二 法人その他の団体(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、次に掲げるもの。、、、、

三 公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報

四 公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報

五 国の機関、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人の内部又は相互間における審議、検討又は協議に関する情報であって、公にすることにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ又は特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれがあるもの

六 国の機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの
イ 監査、検査、取締り、試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ
ロ 契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ
ハ 調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ
ニ 人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ
ホ 独立行政法人等、地方公共団体が経営する企業又は地方独立行政法人に係る事業に関し、その企業経営上の正当な利益を害するおそれ
第七条 行政機関の長は、開示請求に係る行政文書に不開示情報(第五条第一号の二に掲げる情報を除く。)が記録されている場合であっても、公益上特に必要があると認めるときは、開示請求者に対し、当該行政文書を開示することができる。

などと列挙されています。また、第7条により、公益がある場合には不開示事由に該当する場合でも、開示可能のようです。法律の条文は日本語として難解で、具体的にどのような場合に不開示になるのかが素人にはわかりません。121ページから、個々の項目に関して、判例を挙げて説明されています。
個人情報保護には2つの考えかたがあり、ひとつは、特定の個人を識別できる情報を不開示とする「個人識別型」で、他方は、個人のプライバシーを侵害する恐れがある情報を不開示とする「プライバシー型」だそうです。ただし、プライバシー型は、その定義が法的にも社会通念上も不明確で基準が一つに定まらないおそれがあるとのこと。情報公開法は、「個人識別型」を採用しています。また、個人識別型といっても、本質的にはプライバシーを中心とする個人の正当な権利利益の保護となる情報のみが不開示とされます。そして、もう少し具体的にいえば、他の情報と照合すれば特定の個人が識別できる場合、②特定の個人を識別できないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがある場合とに分類されます。
本書で紹介されている判例は、上記①のケースとして、マンションの平面図は郵便受け、表札、案内板などと照合すれば所有者が特定され、所有者の財産状況や私生活を窺い知ることが可能になるとして非公開になっています。
本書123ページからの説明によれば、個人が特定されなくても「一定の集団に属する者に関する情報を開示すると、当該集団に属する個々の者に不利益を及ぼす」(「要綱案の考え方」)可能性がある場合には、不開示となる可能性があるようです。
  1. 情報公開法要項案(中間報告)全文 平成8年4月24日
上記②に当てはまる例として想定されるのは、「個人の未発表の研究論文研究計画等」だそうです。なお、不開示の例外として情報公開法第5条の一号但書イ、ロ、ハがあります。重要な判例として、宮城県食料費情報請求非公開請求非公開処分取消訴訟が挙げられています。簡単にいうと、懇談会の出席者氏名の開示が争われたものですが、公務員個人の行動や生活でなく、仕事なのだから開示すべしという判決だったようです。
  1. 宮城県食料費情報公開訴訟 仙台地裁平成8年7月29日民事第2部判決 (平成7年(行ウ)第4号文書開示拒否処分取消し請求事件)
 さて情報公開法第5条二 法人うんぬんということに関して、本書128ページから面白い判例が紹介されています。市販のウーロン茶に日本で使用禁止されている農薬が検出されたという新聞記事を見た人が、商品名や検出量が記載された文書の公開を求めたものです。商品を販売するということは、商品に関する情報や事業者に関する情報を一般に公開することである、と考えられます。また流通している商品を検査することは誰にでもできます。複数の商品を検査して品質が比較されたときに特定の事業者に不利益が生じるとしても、それもともとの商品の品質の格差に由来するものであるから、事業者は甘受すべし、というのが裁判所の考え方だったようです。
  1. この最判の基準は、9ヵ月後には、残留農薬が検出された健康茶の商品名と販売会社名の開示を認めた東京地判平成6年11月15日判時1510号27頁で採用されることとなった。そのうえでこの東京地判は、市場に流通した商品の品質・性状に関する客観的な情報についての開示基準として、次のように判示した。「商品の品質・性状に関する客観的な情報が公表されることにより、消費者において、ある事業者の商品の品質・性状と他の事業者の商品のそれとの比較が可能となり、その結果、ある事業者の商品の販売力や収益に不利益が生じることがあるとしても、それはもともと当該商品の品質・性状の格差に由来するものであるから、当該商品を流通に置いている事業者が甘受しなければならないというべきである。・・・したがって、商品の品質・性状に関する客観的な情報は、通常は、これが開示されるとしても、当該商品の本来の品質・性状の格差が明らかになるという以上に、事業者の有する競争上等の地位をことさらに害するような性質の情報ではないといわなければならない。」。(情報公開法の見直しと残された課題 三宅 弘 原後綜合法律事務所)

東京都公文書の開示等に関する条例九条三号 公文書非開示 「競争上又は事業運営上の地位その他社会的な地位が損なわれると認められるもの」 の解釈として、「当該情報が開示されることにより、法人等の事業活動等に何らかの不利益が生じるおそれがあるというだけでは足りず、その有している競争上等の地位が当該情報等の開示によって具体的に侵害されることが客観的に明白な場合を意味するものと解するのが相当である」という、「明白性の原則」といわれる基準が、この東京地裁平成6年11月16日判決で示されました。

本書133ページからは、不開示となる場合として、情報公開法5条5号の「審議、検討等」の説明があります。判例として、富士見市のゴミ焼却処分場建設計画に関する事務局の説明部分の公開が紹介されています。円滑な執行に著しい支障を生ずるという部分の解釈として、そのような危険が具体的に存在することが客観的に明白であることを要するとしています。また、会議が非公開で行なわれることと、会議の議事録が非公開であるべきかどうかとは必ずしも一致するものではないという判断です。議事録が公開された結果、出席者が傍聴人や報道関係者から心理的な圧迫を受けて自分の意見が言えなくなるようなことが想定されているようです。この裁判は、「浦和地裁昭和59年6月11日」。

  1. 情報公開条例に関する判例の動向 前津, 栄健

別の判例として、京都府知事が設置した鴨川回収協議会がダムサイト候補地点一途の開示請求が挙げられています。これは一審では開示だったのですが、高裁、最高裁では不開示が支持されました。これは地質、環境等の自然条件や用地確保の可能正当の社会的条件について検討を経ない段階で作成された、意思形成過程の未熟な情報であって、公開により無用の誤解や混乱を招き、当該協議会の意思形成を公正勝つ適切に行なうことに著しい支障が生じるおそれがあるからということです。

本書136ページからは「事務、事業情報」に関する説明があります。条文ではイロハニホとある程度具体的なことが列挙されているわけですが、これは容易に想定されるものを例示しただけで、「制限列挙」ではないと注意がなされています。しかし包括的な表現になっていない点に価値があるとのこと。大阪府知事の交際費の判例が簡単に紹介されているだけで、この部分の解説は少なめ。