マーティン・ファクラー著 「本当のこと」を伝えない日本の新聞 第3章 かくもおかしい新聞

マーティン・ファクラー著 「本当のこと」を伝えない日本の新聞 を読んでいます。第3章のお題は、 かくもおかしい新聞。いきなり日経新聞をぶった切り。本書は外国人記者からみた、日本のジャーナリズムの奇異さの暴露本といえます。新聞報道にときどきあれっ?と思うことはありましたが、ここまで露骨な指摘が飛び出るほどとは思いませんでした。今日から、新聞各紙を読む目が変わりそうです。

日本経済新聞の紙面は、まるで当局や企業のプレスリリースいよって紙面をつくっているように見える。(96ページ)

同じ経済紙でも、イギリスのファイナンシャル・タイムズやアメリカのウォール・ストリート・ジャーナルは報道姿勢がまったく異なる。これらのクオリティペーパーの記者は、企業のプレスリリースにさほど興味を持たない。(97ページ)

取材相手と仲良しクラブ状態になったらジャーナリストとしてお終い。北沢元防衛相のお誕生日パーティが新聞記者ら50人で行われたそうですが、これがもしニューヨークタイムズの記者がこのような会を企画してプレゼントまで贈ろうものなら即刻クビになるだろうといいいます。

こんな距離感では、ジャーナリストとしてまともな記事がかけるはずがないと断言できる。(102ページ)

批判的な記事を書けば、はねっかえりもくるわけで、ファクラー氏がウォールストリートジャーナル(WSJ)だったときに、みずほ銀行の実情を分析した記事を書いたら、みずほファイナンシャルグループ広報担当者が激怒して、広告を全部引き上げると脅してきたんだそうです。WSJの上司はそれを聞いて、笑い飛ばしたとのこと。

Unlikely Team Sets Banking In Japan on Road to Reform
By Martin Fackler Staff Reporter of The Wall Street Journal
Updated Aug. 6, 2003 11:59 p.m. ET
TOKYO — As Resona Holdings prepared to close its books in May, Japan’s fifth-largest bank got a nasty shock. Although it was facing its third annual loss in a row, Resona felt it was healthy enough to forecast steadily rising profits in the next five years. But its auditors balked. https://www.wsj.com/articles/SB106012228469155600 (有料記事)

オフレコについて

オフレコの約束が破られて記事が出た例を出して、ファクラー氏はそれでもやはりオフレコ破りは自分ならしないと言います。

沖縄防衛局長「犯す前に言いますか」と発言 辺野古巡り 朝日新聞 DIGITAL 2011年11月29日11時21分
沖縄県名護市辺野古への米軍普天間飛行場の代替施設建設に向け、政府が環境影響評価(アセスメント)の評価書の提出時期を明言しない理由について、沖縄防衛局の田中聡局長が28日夜の報道各社との非公式の懇談で「これから犯す前に犯しますよと言いますか」などといった趣旨の発言をしていたことがわかった。複数の出席者が語った。女性への性的暴行に例えた発言で、沖縄県内で反発の声が広がりそうだ。 懇談は28日夜、那覇市内の居酒屋で行われ、沖縄県内の報道機関約10社が参加。朝日新聞社は、発言時には同席していなかった。田中局長の発言は、沖縄の地元紙・琉球新報が29日付朝刊1面で報じた。 http://www.asahi.com/special/futenma/SEB201111290006.html

田中聡沖縄防衛局長はこのオフレコ報道の結果、更迭されました。人間としてあまりにもひどい発言ですから、オフレコ破りをしてしまった記者の気持ちもわかります。しかしファクラー氏は、

別の情報源を探して記事を書けばいい。(109ページ)

とアドバイスしています。

主観の入った記事

日本の新聞では記者の名前がはいらない記事も多いですが、欧米ではその記事の執筆者の名前はかならず記されています。その分、責任と自由度があるのでしょう。ファクラーさんは、読者が本当に知りたいのは記者の肉声だと言います。偏った感情的な表現にならないよう、冷静かつ平等に記事を書いているが、下の記事に関しては、完全に客観的に書こうとは思っていないということです。

In Japan, Young Face Generational Roadblocks
By MARTIN FACKLER
Published: January 27, 2011
TOKYO — Kenichi Horie was a promising auto engineer, exactly the sort of youthful talent Japan needs to maintain its edge over hungry Korean and Chinese rivals. As a worker in his early 30s at a major carmaker, Mr. Horie won praise for his design work on advanced biofuel systems. But like many young Japanese, he was a so-called irregular worker, kept on a temporary staff contract with little of the job security and half the salary of the “regular” employees, most of them workers in their late 40s or older. After more than a decade of trying to gain regular status, Mr. Horie finally quit — not just the temporary jobs, but Japan altogether. http://www.nytimes.com/2011/01/28/world/asia/28generation.html

 

究極的には報道とは主観の産物でしかないのだ。(117ページ)

オンリーワンの記事を読みたいからこそ、読者はニューヨーク・タイムズを手にとってくれるのだ。(117~118ページ)

ニューヨークタイムズの犯した過ち

日本の新聞を批判するだけでなく、ニューヨークタイムズに関しても過去に犯した大きな間違いを取り上げています。ひとつは、ニューヨークタイムズの記者ジェイソン・ブレア氏が記事を盗用、捏造する常習犯だったということ。もう一つは、ニューヨークタイムズ記者のジュディス・ミラー氏が、イラクの大量破壊兵器保有というガセネタ報道の張本人になってしまったことです。

ジャーナリストがとるべき立ち位置

批判された権力者に「痛いところを突いてくるが、なるほど公平・公正な主張だな。この新聞記者の言うことには一理ある」と思わせるような記事を書くべきだし、市民個人の利益に寄り添うのではなく、市民が一定のルールに従って生きる市民社会の利益のために奉仕するのが使命だ。(131ページ)

 

参考

  1. プロメテウスの罠 人類に火を与えたのはプロメテウスだった。火を得たことで人類は文明を発達させ、やがて「夢のエネルギー・原子の火」を獲得する。しかし、いま人類は原子の火に悩んでいる。福島第一原発の破綻(はたん)を背景に、国、民、電力を考える。
  2. ビデオニュース・ドットコム ニュース専門ネット局 http://www.videonews.com/
  3. ピュリッツァー賞 受賞作 ノミネート作 http://www.pulitzer.org/prize-winners-categories 多数の部門に分かれていますが、中でも権威があるのが、 Investigative Reportingと、
    Explanatory Reportingだそうです。

語句

  1. 胸襟 ―をひらく 心の中をうちあける。うちとける。
  2. access journalism アクセス・ジャーナリズム 権力に近づきすぎたジャーナリズムのこと