アートとサイエンス

吉田伸夫 光の場、電子の海【書評】

2016/11/06
 
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この本では、高名な物理学者たちが苦労しながら量子力学が作り上げられていく様子を生き生きとした筆致で描いたうえで、さらに量子場の理論、標準模型へ向かった歴史が語られます。当時の理論では説明がつかない観察事実と、それを説明しようとして理論を改良したり新奇なアイデアを導入したりして苦闘する理論物理学者の様子が熱く語られていて、一気に読み通してしまいました。数式がほぼゼロなので、読むを人を選びません。物理が好きな高校生、量子力学の勉強で苦しんでいる理系の大学生、物理学科の学生、科学に興味のある文系の人、誰が読んでも楽しめるのではないでしょうか。

大学で多くの学生が一般教養としての量子力学を学ぶことになると思いますが、新しい概念やら数式が唐突に出てきて戸惑っていることでしょう。この本の一番の目的は量子場の理論へ至る道筋を記すことですが、そのための準備として半分以上のスペースが量子場以前の量子力学形成史に当てられています。大学の量子力学の講義では時間がなくて先生がほとんど説明してくれない、「なぜそんな理論が作られたのか?」、「その理論にどんな意義があるのか?」「誰ががどれほど苦労してつくったのか?」という、勉強するために必要なモチベーションを与えてくれる本です。当時の天才物理学者たちでさえ、新しい概念や理論や解釈を受け入れるのに大きな抵抗があったわけですから、一般の人が初めて聞いて、よく理解できない、なかなか呑み込めないというのは、むしろ当然のことです。わからないのがおかしいということは全くなくて、じっくり必要な時間をかけて学べば良いのです。

多くの理系大学生にとって、大学の量子力学の授業を受けるということは、いきなり知らない土地の森に連れ込まれて迷子になったまま置き去りにされるようなものです。そうなる前に、その森全体の形をよくよく調べて、地図を手に入れておけば、自分が今どこにいるのかがはっきりとわかって、授業で学ぶ充実感が違ってくるでしょう。この本はそんな現代物理学の道しるべとでもいうべき価値があります。

後半は、量子場、くりこみの理論、そして標準模型と、最終的には現代物理学の最先端にまで到達します。人類の英知のの高みが今どこにあるのかを感じ取ることができて、読後の満足感があります。クォーク、ゲージ対称性の破れなどはポピュラーサイエンス本で馴染みの言葉ですが、数式では説明されたくないけれど、もうちょっとちゃんと知りたいという人にはお勧めの本です。


光の場、電子の海―量子場理論への道(amazon.co.jp)

満足度:★★★★★

 

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