大学の勉強(数学や物理や化学)を自習するための教科書の選び方:教科書には種類がある!

理系の大学の勉強は、なかなか大変です。大学入試のための受験勉強は至れり尽くせりの配慮の域届いた受験問題集や参考書がいろいろありますが、なぜか大学に合格したあとの勉強のための参考書や問題集といものはあまりありません。なくはないかもしれませんが、大学受験のときのような手取り足取りのように書かれたものはほとんどないと思います。最近増えてきました。

大学受験のときまでは、あれほど丁寧に面倒を見てもらえたのになぜ大学に合格した瞬間に放置されてしまうのでしょうか。それはそれで不条理な気がしますが、現実がそうである以上をそれを受け入れて何とかするしかありません。大学生にとっては受難ですが。自分は、そのギャップに戸惑っているだけで4年間が終わってしまいました。切り替えが遅いとダメですね。大学とはそういうところだともっと早く悟っていればと悔やまれます。

まあ自分が大学生だったのは数十年前で、今では教科書事情も一変しました。単位を取るための至れり尽くせりの参考書が大学生向けに出版されています。例えば、マセマのシリーズとか。それ以外の教科書もかなり学生想いのものがあります。

教科書を選ぶときには、教科書には様々な種類があるという事実をまず認識する必要があります。

読者として想定している対象が専門家になる人かどうか

例えば杉浦光夫『解析入門』は、数学科の学生や将来数学を専門とするつもりの学生向けに、緻密に論理的に隙なく書かれていると思います。数学を専門にするつもりがない学生にとって、ここまで緻密に書かれた教科書を読むのは苦痛でしかないのではないでしょうか。木を見て森を見ずではないですが、まずは森の全体像を見せてくれる教科書、細かい木を見ることはある程度諦めて書かれた教科書のほうが向いているはずです。

書籍タイトルに入門、基礎とある場合、初学者向きかどうか

解析入門、熱力学の基礎といったタイトルの教科書がありますが、ここでいう入門や基礎といった言葉は、決して初学者を対象にしたという意味ではありません。解析入門は数学徒として数学の世界に入りたい人が門をくぐるためという意味での入門書です。熱力学の基礎の基礎も、将来物理のどんな分野の専門家になる人にとっても確固たる土台を築くという目的での基礎だったりします。

その教科書の最終目標地点がどこか

基本的な概念の習得を最終目標にしているため、内容を大幅に絞って書かれた教科書も存在します。その場合、専門教育としては深さや、到達する高さが物足りないということもありえます。そういう教科書は副読本としては有用ですが、教科書はまた別に用意する必要があります。

網羅的な教科書か

本当に初心者向けの教科書の場合、内容を絞り込んであまり網羅的な構成にしていないこともあります。大学生の場合、一応勉強すべきとされている範囲を一通り押さえないといけないので、そういった本は副読本としては良くても、一冊取り組む教科書には向かない場合があります。

科学史を反映した教科書か論理的に組み立てた教科書か

朝永の量子力学の教科書は、量子力学が形成されていく歴史にある程度沿った流れで書かれているため、物理学者たちの悪戦苦闘が知れて読んで面白いと思います。それに対して、公理主義的に書かれた教科書もあります。これは物理の理論的な組み立てとしては魅力的ですが、人間臭い部分が省かれています。

その分野を開拓、確立した直後に本人によって書かれた教科書か

伊藤 清『確率論の基礎』 のように、その分野に重要な貢献をした学者がその分野が形成されたころに書いた教科書には、その研究領域の熱気に溢れています。その後10年、20年経ってから第三者の手によって書かれた教科書は、もっと整然としていて当時の熱気に思いを馳せることがむずかしくなります。

どこの大学のどの学部・学科の講義録に基づいて書かれた教科書か

多くの教科書は、大学の先生が自分が教えている大学の学生を対象とした長年の講義経験に基づいて書かれています。すると学生の学力や理解力に合わせたものになっているはずです。東京大学数学科を対象とした講義録に基づいて書かれた数学の教科書と、他大学で経済学を専門とする学生を対象とした講義録に基づいて書かれた数学の教科書は、おのずと説明の仕方が異なってきます。難関大学でそれを専門とする学生(もしくはその分野の専門家になるつもりの学生)を対象にした講義録に基づくのか、難関大学ではない大学でそれを専門とするわけではない学生(もしくは大学の専攻とは無関係な企業に大学卒業後に就職する人が大半)を対象にした講義録に基づくものか、その差は非常に大きなものがあります。

自分の学力に見合った「行間」の教科書か

数物系の教科書の説明には、かならず「行間」(式変形など省略された部分)があります。行間を埋めるための背景知識があるかどうかで、自分が理解できる教科書が変わってきます。マセマの教科書のように行間がないことを売りにした教科書もありますが、それ以外のほとんどの教科書には多かれ少なかれ行間があります。ランダウ=リフシッツの物理学教程のシリーズなどは、自分の場合、行間がありすぎてほとんど全く読めません。

定評がある教科書か

大学の教科書は大学の先生が自分の講義経験に基づいて書いている場合が多いです。ですので、同じ教科、トピックの教科書が非常に多く出版されています。教科書によっては出版されて数年で絶版になるものもあるでしょう。その一方で、長年読み継がれる教科書も存在します。杉浦『解析入門 Ⅰ』は1980年3月31日の発行なのでもう40年以上も前の教科書ですが、ロングセラーであり現在でも大きな存在感があります。このように長年読み継がれた教科書は、誤植なども訂正されているでしょうし、安心できます。