その意味を端的に言うと、**「アインシュタインが特殊相対性理論を作らなければ、マクスウェルの方程式（電磁気学）が成り立たなくなるか、あるいは物理学全体が大きな矛盾を抱えることになった」**ということです。

特殊相対性理論は、マクスウェルの方程式を「信じる」ことから生まれた理論なのです。

詳しく解説します。

👑 1. 電磁気学（マクスウェル）の「予言」

19世紀後半、ジェームズ・クラーク・マクスウェルは、電気と磁気の現象を4つの方程式にまとめ上げました（マクスウェルの方程式）。

この方程式を数学的に変形すると、驚くべき「波の式」が現れます。これは、電場と磁場が互いを源として空間を伝わっていく「電磁波」の存在を予言するものでした。

さらに重要なのは、その波の速度 $c$ が、電気と磁気に関する宇宙の基本定数（真空の誘電率 $\epsilon_0$ と 真空の透磁率 $\mu_0$）だけで決まってしまったことです。

この $\epsilon_0$ と $\mu_0$ は、コンデンサーの実験やコイルの実験など、光とは全く関係ない実験で測定できる値です。しかし、これらを上の式に代入して計算すると、その速度 $c$ は「秒速 約30万km」となり、当時すでに測定されていた光の速さと完全に一致しました。

これにより、光が電磁波の一種であることが証明されました。

🚨 ここが最大の問題点

このマクスウェルの理論が示す光の速さ $c$ は、**観測者の速度や光源の速度に一切依存しない「絶対的な定数」**として導き出されました。

方程式には「誰から見た速さか」を指定する変数（$v$ など）がどこにも入っていません。つまり、**「光の速さは、誰が見ても $c$ である」**と、マクスウェルの方程式が主張しているのです。

🚂 2. 古典物理学（ニュートン）の「常識」との矛盾

この「誰が見ても $c$」という予言は、それまでの物理学の常識（ニュートン力学とガリレイの相対性原理）と真っ向から対立しました。

• ニュートンの常識（速度の合成）:
  • 時速100kmで走る電車の中で、あなたが進行方向に時速5kmで歩けば、外の（静止している）人から見たあなたの速度は $100 + 5 = 105 \text{ km/h}$ です。
  • これが当たり前の「速度の合成」です（$v’ = u + v$）。
• この常識を光に当てはめると？
  • もしあなたが超高速なロケット（速度 $V$）に乗って、前方に懐中電灯をつけたとします。
  • ニュートンの常識: 外で静止している人には、その光の速さは $c + V$ に見えるはずです。
  • マクスウェルの主張: いいえ、その人にも光の速さは $c$ に見えなければなりません。

物理学者たちは19世紀末、この大矛盾に直面しました。

💡 3. アインシュタインの「解決」

当時の多くの物理学者は「マクスウェルの方程式は、どこか間違っている（あるいは、”エーテル”という特別な基準系でだけ成り立つ）」と考えました。

しかしアインシュタインは、まったく逆の発想をしました。

「マクスウェルの方程式は完璧に正しい。間違っているのは、ニュートン以来の我々の『時間と空間の常識』の方だ」

彼は、マクスウェルの方程式が誰にとっても成り立つことを要請（公理）しました。これが「光速度不変の原理」です。

「誰から見ても光の速さが $c$」という無茶な前提を受け入れると、速度の計算の前提となる「時間」と「空間（距離）」の方が、観測者によって変化しなければ辻褄が合いません。

• 動いている人の時間は遅れ（時間の進み方が遅くなる）
• 動いている人の進行方向の長さは縮む（空間が歪む）

このように、マクスウェルの方程式を絶対的な真理として受け入れるために、ニュートン的な絶対的な時間と空間を捨て、時間と空間が観測者によって変わるという新しい時空観を導入した—これが特殊相対性理論です。

結論：なぜ「当然の帰結」なのか？

つまり、こういう論理関係です。

1. 前提: マクスウェルの方程式（電磁気学）は、宇宙の真理である。
2. 発見: マクスウェルの方程式は、光速 $c$ が誰にとっても一定であることを数学的に要求している。
3. 矛盾: 「光速が一定」という事実は、従来の時空観（ニュートン力学）と致命的に矛盾する。
4. 解決: 従来の時空観を捨て、「光速が一定」であることを前提とした新しい時空のルール（時間の遅れ・空間の縮み）を構築する。
5. 誕生: この新しい時空のルールこそが「特殊相対性理論」である。

したがって、**「特殊相対性理論は、電磁気学の正しさを保証するために、必然的に導き出された理論」**であり、「電磁気学からの当然の帰結」と表現されるのです。