大学の生化学の授業は全く面白くなかったのですが、とりわけ全然理解できなかったのは電子伝達系の部分でした。膜に複合体I、II,III,IV、Vが存在しているのはいいとして、それで一体何がどうなるのかが全然ピンとこなかったのです。
電子伝達系という名前で呼ぶくらですから、電子が伝達されていくというのはわかりますが、だから何?という感覚でした。いまさらながら、勉強しなおしておきたいと思います。
電子が電位の高いところから電位の低いところに移動すると、そのエネルギーの差だけ仕事ができるのでした。
- 仕事が電荷量かける電位になるのはなぜですか? YAHOO!知恵袋
その仕事で何をするかというと、ミトコンドリアの内膜をはさんだ膜間腔(ミトコンドリア外膜とミトコンドリア内膜との間の空間)とマトリックス(ミトコンドリア内膜の内側の空間)の間のプロトンの濃度勾配に逆らってプロトンをくみ出すのでした。エネルギー通貨ATPをつくる前段階として、せっせとプロトン勾配という形にエネルギーをため込むわけです。
複合体I,II,III,IVは何をしているのかというと、これらは単に酵素に過ぎません。化学反応を起こす主役は何かというと、電子運搬体であるNADH、FADH2と電子を受け取るがわの酸素、途中をつなぐユビキノン(Q)、シトクロムcです。複合体I,III,IVはただの酵素ではなくて、プロトン汲み上げと反応をカップルさせてはたらくプロトンポンプでもあるところがミソなのです。
複合体Iが触媒する反応
複合体Iが触媒する反応は、
NADH + H+ + ユビキノンQ → NAD+ + ユビキノールQH2
NADH は NAD+ + H+ + 2e- と分けて考えると電子2個を運搬していたわけで、その電子2個が今度はユビキノンに渡された(伝達された)と解釈することができます。
NADHは直接ユビキノンQに電子を渡すわけではなくて、複合体Iにまず電子を預けます。電子は複合体Iの内部を動いていって、最後にユビキノンQに電子を渡すことになります。電子が途中移動していくときに電位が低いほうへと向かうわけですが、そのプロセスで放出されるエネルギーを利用して複合体Iはプロトンポンプとして働き、プロトンを汲み上げます。
一方、これとは別の流れとして、クエン酸回路でコハク酸がフマル酸に変換される過程でFADがFAD2に還元されていましたが、kのFAD2に対して複合体IIが働きます。
複合体IIが触媒する反応
複合体IIが触媒する反応は、
FADH2 + ユビキノンQ → FAD + ユビキノールQH2
です。FADH2という電子運搬体が電子を電子受容体であるユビキノンQに伝達したと理解します。複合体IIは、複合体Iとはちがって、プロトンポンプの作用はもっていません。
さてユビキノールQH2が運搬している電子はこのあとどうなるのかというと、複合体IIIに渡されます。
複合体IIIが触媒する反応
複合体IIIに渡された電子は、複合体IIIの内部を、電位の低いほうに向かって移動していきます。その際に放出されるエネルギーがプロトンポンプを動かすのに使われます。
複合体IIIの内部を移動していった電子は、シトクロムcに渡されます。シトクロムcはヘムを含むヘムタンパク質ですが、実際に電子を受け入れる場所はどこかというとシトクロムcがもっている「ヘム」のなかの鉄イオンです。3価の鉄イオンが電子一つをもらって2価の鉄イオンになります。
Complex III contains cytochromes b562 and b566 (collectively called cytochrome b), cytochrome c1, and an iron–sulfur protein. Complex III catalyzes the transport of reducing equivalents from CoQ to cytochrome c:
QH2 + 2 Cyt c ( Fe 3+ ) → Q + 2 Cyt c ( Fe 2+ ) + 2 H +
Coenzyme Q, also called ubiquinone because of its ubiquitous occurrence in microorganisms, plants, and animals, (Electron Transport Chain, Oxidative Phosphorylation, and Other Oxygen-Consuming Systems)
名前がちょっと紛らわしいのですが、複合体IIIの構成要素はシトクロムc1とシトクロムbで、基質であるシトクロムcと名前が同じです。シトクロムbもヘムを持ったヘムタンパク質です。基質と酵素に同じシトクロムという名前が与えられているのは、何か歴史的な経緯なのでしょうか。
シトクロムcは電子を複合体IVへ渡します。
複合体IVが触媒する反応
複合体IVが触媒するのは、シトクロムcから酸素へと電子を伝達する反応です。酸素が電子を受け取る反応だけ書き出すと、
1/2 O2 + 2e- + 2H+ → H2O
この場合は電子を供与するのはシトクロムcで、ヘムの2価イオンが3価イオンにもどるときに生じる電子です。
4 シトクロムc(Fe2+) + O2 + 4H+ → 4 シトクロムc(Fe3+) + 2H2O
- 呼吸鎖 電子伝達系と酸化的リン酸化(sc.fukuoka-u.ac.jp)
鉄イオンからもらった電子は、H2Oというかたちで酸素と水素とが共有結合をつくるのにつかわれているわけですが、電気陰性度が酸素のほうが水素よりも大きいので、ほとんど酸素が電子をもらったみたいになるんですね。なので酸素分子が電子の受容体と呼ばれるわけです。
化学反応はここで完結していて、最後のステップ、エネルギー通貨であるATPを産生する(ADPをATPに変換する)過程は、複合体Vが受け持ちます
複合体Vが働く過程
複合体Vは、I~IVとは違って、化学反応を触媒する酵素ではなく、プロトンチャンネルという機能を持っています。ここまでの過程でプロトンの勾配がすでにできているので、今度はチャンネルを開いてプロトンを流入させてそのエネルギーを用いてADPをATPに変換するのです。濃度が高い部分から低い部分に物質が拡散する反応というのは、自由エネルギーの差が負になる、つまり自発的に起きるプロセスです。ADPをATPに変換する際の自由エネルギーは正なので、あわせることで全体が負になって期待した反応が進むわけです。
こまかいことをいうと、途中の反応はもっと複雑ですが、詳細には目をつぶって、全体像はこんなふうに理解してよいのではないかと思います。さてここまでわかったところで、おさらににプロフェッサーデーブの動画を見てみましょう。
Cellular Respiration Part 3: The Electron Transport Chain and Oxidative Phosphorylation
3Dコンピュータ‐グラフィックスで、それっぽい動画も。この下の動画は、かなり詳細です。
Electron transport chain Harvard Online チャンネル登録者数 14.4万人
酸化還元電位と電子の流れとの関係
酸化還元電位が大きい(正の値)ほど、電子を受け入れやすく、小さい(負で、絶対値が大きい)ほど電子を与えやすいという関係になります。NADHやFADH2は、酸化還元電位が小さく、酸素は酸化還元電位が大きく、電子伝達系のそれぞれの電子運搬体はその中間の酸化還元電位をもっており、酸化還元電位の大きさにあわせて、電子が移動していくわけです。わかりやすい説明をしてくれる動画:
REDOX POTENTIAL OF COMMON REDOX COUPLES – #Usmle Electron Transport Chain Dr.G Bhanu P
酸化還元電位はそれはそれでまたややこしいので別記事にします。
参考
- The discovery of chytochrome Biochemical Edication 1973