Boasの第12章は関数を無限級数で表すことにより、微分方程式を解きましょうというもの。例題の説明のあと、このやり方になれるためにいくつか問題が用意されています。
問題1:xy’=xy+y
これは高校数学ではお馴染みの問題で、両辺をyで割ると
x y’ / y = x + 1 両辺をxで割ると
y’/y = 1+1/x y’ = dy/dx と書くと
dy/dx (1/y) = 1 + 1/x yとxがそれぞれ左辺と右辺に分かれたのでそれぞれを積分することができて、
(1/y) dy = (1+ 1/x ) dx
ln y = x + ln x + const
ln y – ln x = x + const
ln (y/x) = x + const
y/x = exp (x + const)
y = const*x*exp(x)
と解が求まります。
大学の物理数学では、これを違うやり方で解きましょうというわけです。なぜ高校数学で解ける問題を違う方法で解くことを学ぶのかというと、高校数学の方法では解けないようなややこしい微分方程式であっても、解くことができる汎用性のある解法だからということだそうです。yがxのべき乗の級数の形で書けると仮定して
y = Σ(n=0から∞) a_n * x^n とおきます。 a_nの_nは添え字です。
yをxで微分すると、
y’ = d/dx ( a_0 + a_1*x + a_2*x^2 + a_3*x^3 + a_4*x^4 + …)
= a1 + 2*a_2*x + 3*a_3* x^2 + 4*a_4*x^3 + …
= Σ(n=1から∞) n*a_n*x^(n-1)
となります。定数a0は微分するとゼロで消えてしまったので、nは0からではなく1からであることに要注意。自分はここで躓きました。
このy と y’を問題の式xy’=xy+yに代入すると
x * Σ(n=1から∞) n*a_n*x^(n-1) = x * Σ(n=0から∞) a_n * x^n + Σ(n=0から∞) a_n * x^n
全部の項を左辺に集めることにして
x * Σ(n=1から∞) n*a_n*x^(n-1) – x * Σ(n=0から∞) a_n * x^n – Σ(n=0から∞) a_n * x^n = 0
さてこの方程式が、xがどんな値をとったとしてもなりたつためには、xのべき乗の係数がゼロであればよいので、xのべき乗で項をまとめる方針で、式を整理していきます。Σの添え字が第一項だけ1から始まっているので、ゼロから始まるようにn = m+1 と置き換えます。m+1 =1から∞、すなわちm= 0から∞ということ。
x * Σ(m=0から∞) (m+1)*a_(m+1)*x^m – x * Σ(n=0から∞) a_n * x^n – Σ(n=0から∞) a_n * x^n = 0
a_(m+1)の _(m+1)は添え字のつもり。他の項も添え字をnからmに書き替えることにして、
x * Σ(m=0から∞) (m+1)*a_(m+1)*x^m – x * Σ(m=0から∞) a_m * x^m – Σ(m=0から∞) a_m * x^m = 0
xがかかっている項は、べき乗の中にまとめることにすると
Σ(m=0から∞) (m+1)*a_(m+1)*x^(m+1) – Σ(m=0から∞) a_m * x^(m+1) – Σ(m=0から∞) a_m * x^m = 0
xのべき乗でまとめると、
Σ(m=0から∞)[ ((m+1)*a_(m+1) – a_m )*x^(m+1) – am* x^m] =0
xの0乗の項は、a_0*x^0 のひとつだけで、xのべき乗のそれぞれの係数がゼロにならないといけないという要請から、
a_0 = 0 となります。
x^1 の項は、m = 0 のときと m= 1のときに現れますが、
(1*a_1-a_0)*x^1 -a_1*x^1 となり、係数ゼロなので
(a_1-a_0) -a_1 = 0 a_1 は消えるので、値はここでは定まりません。
x^(m+1)の項は、Σの添え字がmのときとm+1の時にあらわれますが、それらは
(m+1)*a_(m+1)-a_m -a_(m+1) = 0
よって
((m+1)-1)*a_(m+1)-a_m=0
m*a_(m+1) =a_m
a_(m+1) = a_m / m
a_(m+1) = a_m / m = a_(m-1) / m(m-1) = a_(m-2) / m(m-1)(m-2) = a_1 / m!
この関係式を使うと、yは
y = Σ(n=0から∞) a_n * x^n
= a_0*x^0 + a_1*x^1 + a_2*x^2 + a_3*x^3 + a_4*x^4 + a_5*x^5 + …
= a_1*x + a_1/(1!) * x^2 + a_1/(2!) *x^3 + a_1/(3!) *x^4 + a_1/(4!) *x^5 + …
= a_1*x*( x^0 / 0! + x^1 / 1! + x^2 /2! + x^3 /3! + x^4 /4! + … )
= a_1*x*[ Σ(n=0から∞) x^n /n! ]
= a_1 * x * exp(x)
最初に高校数学方式で解いたものと同じ結果になりました。
Σ記号の中身をわざわざ書かなくても、慣れればできるのかもしれませんが、自分はどうも混乱してわからなくなるので、全部書き下して考えました。
参考サイト
- Physics 116C Solutions to Homework Set #1 Fall 2011 1 Boas, problem p.564, 12.1-1 (http://scipp.ucsc.edu/~haber/)
- Mary Layne Boas (1917–2010) (Wikipedia)
この教科書(第3版 2005年)の著者のBoasさんはもう亡くなってしまっていたんですね。改訂版が出ることはもうないのか。