古文の勉強ノート:助動詞をマスターする

古文は多少の暗記+ルールを叩き込むことで一気にマスターできる、勉強しやすい科目です。特に、助動詞を完全にマスターできれば、半分以上の勉強は終わったようなものです(大学受験の場合)。

昭和は遠くなりにけり

古文の読解では、語句を分解できないと始まりません。

昭和 は 遠く なり に けり

動詞が「なる」というのは、わかるでしょう。古語の動詞の活用は、

未然形/連用形/終止形/連体形/已然形/命令形

があります。

古文のルール#:活用する単語(動詞、助動詞など)は、「終止形」が基本で、まず「終止形」を覚え、同時に、活用にどう変化するかも覚える。

なる」の活用は、

なら・ず/なり・て/なるなる・とき/なれ・ども/なれ と変化する、 ラ行四段活用です。ここでは、連用形の「なり」となっています。

「に」は、助動詞「ぬ」の連用形です。

古文のルール#:助動詞の前の言葉が活用する場合何形になるかは、助動詞ごとに決まっている。

古文上達のための暗記事項#:ある助動詞が、その助動詞の直前にくる言葉のどの活用形に接続する助動詞かは暗記するしかない。

連用形に接続する助動詞(「連用形接続の助動詞」)は、「き」、「けり」、「つ」、「ぬ」、「たり」、「けむ」、 「たし」 の7語
連用形接続の助動詞 何回も唱えて覚えてしまうんだ! 助動詞の上が連用形になるやつ。き/けり/つ/ぬ/たり/けむ/たし

 

昭和 は 遠く なり に けり の「に」も「けり」も助動詞ですが、「に」も「けり」も今暗記したように、「連用形接続の助動詞」なので、「に」の前の「なり」、「けり」の前の「に」はどちらも連用形になっているというわけです。

 

覚えるべき基本的な助動詞は27個しかありません。全部覚えましょう。助動詞の終止形、意味、接続、活用を丸暗記するのです。暗記すれば、文章の中で分析することができ、古文の読解力は飛躍的に上昇します。

未然形接続…る、らる、す、さす、しむ、む、むず、ず、じ、まし、まほし
連用形接続…き、けり、つ、ぬ、たり、たし、けむ
終止形接続…らむ、らし、まじ、べし、めり、なり(伝聞・推定)
連体形・体言接続…なり(断定)、たり、ごとし
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1259658362

機械的に覚えるのは大変なので、「もしもし亀よ、亀さんよ 世界の中でお前ほど 歩みにのろいものはない どうしてそんなにのろいのか」の替え歌で覚えるのが受験生の間では一般的なようです。

「(未然)る らる す さす しむ と来て

む むず ず じ まし まほし

(連用)き けり つ ぬ たり たし けむ

(終止形接続)らむ らし べし まじ めり と なり

ラ変につく時連体形 なり たり ごとし も連体形

のごとし がごとし さみしい(サ未 四已) 

覚えて嬉しい高校生♪」

(出典:大学受験.net

桃太郎さん で覚える方法。 別法の もしもし亀よ

古文助動詞接続のうた(もしもし亀よ、の替え歌)

 

混乱しないための注意

  • 「なり」は2つある!終止形接続で伝聞・推定の「なり」と、連体形接続で断定の「なり」 文例:男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり。 最初の「なる」はその前の単語を見てみると動詞「す」の終止形「す」についているので、終止形接続の伝聞推定の「なり」の連体形「なる」。後者の「なり」は、動詞「す」の連体形「する」に接続しているので、連体形接続で伝聞・推定の「なり」の終止形。このように接続でわかることもあるが、「いふ」(ハ行四段活用)のように終止形も連体形も「いふ」で同じ形の場合には、このような区別のやり方が使えない(?未解決?)

 

未然形に接続する助動詞

る (受身、 尊敬、自発、可能 れ れ る るる るれ れよ)

らる

さす

しむ

む (推量・意志・希望・適当・勧誘・仮定・婉曲 ー ー む む め -) ながながし夜を ひとりかも寝む(連体形)

むず

まし

まほし

連用形に接続する助動詞

き(過去 せ  ー き  し しか ー)) 三笠の山に出で月かも (連体形)

けり(過去・詠嘆 けら - けり     ける     けれ     ー) 白きを見れば 夜ぞ更けにける (連体形)

ぬ (完了 な に ぬ ぬる ぬれ ね) 春過ぎて夏来けらし(連用形)(*けらし=ける+らしで1語になった助動詞) 白きを見れば 夜ぞ更けける(連用形)(「ける」)は「けり」(詠嘆の連体形)) 恋ぞ積もりて 淵(ふち)となりぬる(連体形)

たり

たし

けむ

終止形に接続する助動詞

らむ しづこころなく 花の散るらむ 

らし

まじ

べし

めり

なり (伝聞 ー なり なり なる なれ -) 男もなる日記を(連体形) 世(よ)をうぢ山(やま)と 人(ひと)はいふなり(終止形)(根拠??)

連体形・体言に接続する助動詞

なり(断定 なら なり なり なる なれ なれ) 女もしてみんとてするなり(終止形)

たり

ごとし

 

 

 

参考にしたウェブサイト

  1. 古文助動詞の覚え方~意味・接続を歌で即日暗記~  (受験ネッ) (やみくもに全部覚えるのでなく、一番重要なポイントを指摘していて、非常に役立つ説明だと思います)
  2. 古文助動詞の練習問題~たったの9公式20問で基本完了〜  (受験ネット
  3. 古文で、助動詞の接続が分かりません  (YAHOO JAPAN知恵袋)ベストアンサーに選ばれた回答 taiyouno11さん 接続は、助動詞の上の語の活用形も下の語の活用形もどちらも関係がありません。 接続は、最初からそれぞれの助動詞ごとに決まっています。「けり」は連用形接続、「む」や「ず」は未然形接続、「べし」は終止形接続などと。それが接続という意味です。助動詞の活用形は、下にどんな語(助動詞の場合はどんな接続の語)が来るかで決まります。例の「尼なりけり」でしたら、 「なり」は、断定の助動詞で下に連用形接続の助動詞「けり」がくるから、「なり」は連用形になります。ちょっと複雑ですが、助動詞が重なるとこうなります。
  4. 古文 助動詞の公式 助動詞の意味・用法を理解しよう https://www.zkai.co.jp/high/k1k2/mihon/pdf/ml2asy.pdf
  5. TOSHIN TIMES 文法は、読解や設問解答の要だ!!(古文)
  6. 高くなりにけり。の文法的解釈(YAHOO!JAPAN知恵袋) けり が連用形接続なので、に は「ぬ」の連用形です。

 

百人一首(ウィキペディアより転載)

1.天智天皇 秋(あき)の田(た)の かりほの庵(いほ)の 苫(とま)をあらみ わが衣手(ころもで)は 露(つゆ)にぬれつつ

2.持統天皇 春過(はるす)ぎて 夏来(なつき)にけらし白妙(しろたへ)の 衣干(ころもほ)すてふ天(あま)の香具山(かぐやま)

3.柿本人麻呂 あしびきの 山鳥(やまどり)の尾(を)の しだり尾(を)の ながながし夜(よ)を ひとりかも寝(ね)む

4.山部赤人 田子(たご)の浦(うら)に うち出(い)でて見(み)れば 白妙(しろたへ)の 富士(ふじ)の高嶺(たかね)に 雪(ゆき)は降(ふ)りつつ

5.猿丸大夫 奥山(おくやま)に 紅葉踏(もみぢふ)み分(わ)け 鳴(な)く鹿(しか)の 声聞(こゑき)く時(とき)ぞ 秋(あき)は悲(かな)しき

6.中納言家持 鵲(かささぎ)の 渡(わた)せる橋(はし)に 置(お)く霜(しも)の 白(しろ)きを見(み)れば 夜(よ)ぞ更(ふ)けにける

7.阿倍仲麻呂 天(あま)の原(はら) ふりさけ見(み)れば 春日(かすが)なる 三笠(みかさ)の山(やま)に 出(い)でし月(つき)かも

8.喜撰法師 わが庵(いほ)は 都(みやこ)の辰巳(たつみ) しかぞ住(す)む 世(よ)をうぢ山(やま)と 人(ひと)はいふなり

9.小野小町 花(はな)の色(いろ)は 移(うつ)りにけりな いたづらに わが身世(みよ)にふる ながめせしまに

10.蝉丸 これやこの 行(ゆ)くも帰(かへ)るも別(わか)れては 知(し)るも知(し)らぬも 逢坂(あふさか)の関(せき)

11.参議篁 わたの原(はら) 八十島(やそしま)かけて 漕(こ)ぎ出(い)でぬと 人(ひと)には告(つ)げよ 海人(あま)の釣船(つりぶね)

12.僧正遍昭 天(あま)つ風(かぜ) 雲(くも)の通(かよ)ひ路(ぢ) 吹(ふ)き閉(と)ぢよ 乙女(をとめ)の姿(すがた) しばしとどめむ

13.陽成院 筑波嶺(つくばね)の 峰(みね)より落(お)つる 男女川(みなのがは) 恋(こひ)ぞ積(つ)もりて 淵(ふち)となりぬる

14.河原左大臣 陸奥(みちのく)の しのぶもぢずり 誰(たれ)ゆゑに 乱(みだ)れそめにし われならなくに

15.光孝天皇 君(きみ)がため 春(はる)の野(の)に出(い)でて 若菜摘(わかなつ)む わが衣手(ころもで)に 雪(ゆき)は降(ふ)りつつ

16.中納言行平 立(た)ち別(わか)れ いなばの山(やま)の 峰(みね)に生(お)ふる まつとし聞(き)かば 今帰(いまかへ)り来(こ)む

17.在原業平朝臣 ちはやぶる 神代(かみよ)も聞(き)かず 竜田川(たつたがは) からくれなゐに 水(みづ)くくるとは

18.藤原敏行朝臣 住(すみ)の江(え)の 岸(きし)に寄(よ)る波(なみ) よるさへや 夢(ゆめ)の通(かよ)ひ路(ぢ) 人目(ひとめ)よくらむ

19.伊勢 難波潟(なにはがた) 短(みじか)き蘆(あし)の ふしの間(ま)も 逢(あ)はでこの世(よ)を 過(す)ぐしてよとや

20.元良親王 わびぬれば 今(いま)はたおなじ 難波(なには)なる みをつくしても 逢(あ)はむとぞ思(おも)ふ

21.素性法師 今来(いまこ)むと 言(い)ひしばかりに 長月(ながつき)の 有明(ありあけ)の月(つき)を 待(ま)ち出(い)でつるかな

22.文屋康秀 吹(ふ)くからに 秋(あき)の草木(くさき)の しをるれば むべ山風(やまかぜ)を 嵐(あらし)といふらむ

23.大江千里 月見(つきみ)れば ちぢにものこそ 悲(かな)しけれ わが身一(みひと)つの 秋(あき)にはあらねど

24.菅家 このたびは ぬさも取(と)りあへず 手向山(たむけやま) 紅葉(もみぢ)の錦(にしき) 神(かみ)のまにまに

25.三条右大臣 名(な)にし負(お)はば 逢坂山(あふさかやま)の さねかづら 人(ひと)に知(し)られで 来(く)るよしもがな

26.貞信公 小倉山(をぐらやま) 峰(みね)のもみぢ葉(ば) 心(こころ)あらば 今(いま)ひとたびの みゆき待(ま)たなむ

27.中納言兼輔 みかの原(はら) わきて流(なが)るる 泉川(いづみがは) いつ見(み)きとてか 恋(こひ)しかるらむ

28.源宗于朝臣 山里(やまざと)は 冬(ふゆ)ぞ寂(さび)しさ まさりける 人目(ひとめ)も草(くさ)も かれぬと思(おも)へば

29.凡河内躬恒 心(こころ)あてに 折(を)らばや折(を)らむ 初霜(はつしも)の 置(お)きまどはせる 白菊(しらぎく)の花(はな)

30.壬生忠岑 有明(ありあけ)の つれなく見(み)えし 別(わか)れより 暁(あかつき)ばかり 憂(う)きものはなし

31.坂上是則 朝(あさ)ぼらけ 有明(ありあけ)の月(つき)と 見(み)るまでに 吉野(よしの)の里(さと)に 降(ふ)れる白雪(しらゆき)

32.春道列樹 山川(やまがは)に 風(かぜ)のかけたる しがらみは 流(なが)れもあへぬ 紅葉(もみぢ)なりけり

33.紀友則 ひさかたの 光(ひかり)のどけき 春(はる)の日(ひ)に 静心(しづこころ)なく 花(はな)の散(ち)るらむ

34.藤原興風 誰(たれ)をかも 知(し)る人(ひと)にせむ 高砂(たかさご)の 松(まつ)も昔(むかし)の 友(とも)ならなくに

35.紀貫之 人(ひと)はいさ 心(こころ)も知(し)らず ふるさとは 花(はな)ぞ昔(むかし)の 香(か)に匂(にほ)ひける

36.清原深養父 夏(なつ)の夜(よ)は まだ宵(よひ)ながら 明(あ)けぬるを 雲(くも)のいづこに 月宿(つきやど)るらむ

37.文屋朝康 白露(しらつゆ)に 風(かぜ)の吹(ふ)きしく 秋(あき)の野(の)は つらぬきとめぬ 玉(たま)ぞ散(ち)りける

38.右近 忘(わす)らるる 身(み)をば思(おも)はず 誓(ちか)ひてし 人(ひと)の命(いのち)の 惜(を)しくもあるかな

39.参議等 浅茅生(あさぢふ)の 小野(をの)の篠原(しのはら) しのぶれど あまりてなどか 人(ひと)の恋(こひ)しき

40.平兼盛 しのぶれど 色(いろ)に出(い)でにけり わが恋(こひ)は ものや思(おも)ふと 人(ひと)の問(と)ふまで

41.壬生忠見 恋(こひ)すてふ わが名(な)はまだき 立(た)ちにけり 人知(ひとし)れずこそ 思(おも)ひそめしか

42.清原元輔 契(ちぎ)りきな かたみに袖(そで)を しぼりつつ 末(すゑ)の松山(まつやま) 波越(なみこ)さじとは

43.権中納言敦忠 逢(あ)ひ見(み)ての のちの心(こころ)に くらぶれば 昔(むかし)はものを 思(おも)はざりけり

44.中納言朝忠 逢(あ)ふことの 絶(た)えてしなくは なかなかに 人(ひと)をも身(み)をも 恨(うら)みざらまし

45.謙徳公 あはれとも いふべき人(ひと)は 思(おも)ほえで 身(み)のいたづらに なりぬべきかな

46.曽禰好忠 由良(ゆら)の門(と)を 渡(わた)る舟人(ふなびと) かぢを絶(た)え ゆくへも知(し)らぬ 恋(こひ)のみちかな

47.恵慶法師 八重(やへ)むぐら しげれる宿(やど)の さびしきに 人(ひと)こそ見(み)えね 秋(あき)は来(き)にけり

48.源重之 風(かぜ)をいたみ 岩(いは)うつ波(なみ)の おのれのみ くだけてものを 思(おも)ふころかな

49.大中臣能宣朝臣 御垣守(みかきもり) 衛士(ゑじ)のたく火(ひ)の 夜(よる)は燃(も)え 昼(ひる)は消(き)えつつ ものをこそ思(おも)へ

50.藤原義孝 君(きみ)がため 惜(を)しからざりし 命(いのち)さへ 長(なが)くもがなと 思(おも)ひけるかな

51.藤原実方朝臣 かくとだに えやは伊吹(いぶき)の さしも草(ぐさ) さしも知(し)らじな 燃(も)ゆる思(おも)ひを

52.藤原道信朝臣 明(あ)けぬれば 暮(く)るるものとは 知(し)りながら なほうらめしき 朝(あさ)ぼらけかな

53.右大将道綱母 嘆(なげ)きつつ ひとり寝(ね)る夜(よ)の 明(あ)くる間(ま)は いかに久(ひさ)しき ものとかは知(し)る

54.儀同三司母 忘(わす)れじの ゆく末(すゑ)までは かたければ 今日(けふ)を限(かぎ)りの 命(いのち)ともがな

55.大納言公任 滝(たき)の音(おと)は 絶(た)えて久(ひさ)しく なりぬれど 名(な)こそ流(なが)れて なほ聞(き)こえけれ

56.和泉式部 あらざらむ この世(よ)のほかの 思(おも)ひ出(で)に いまひとたびの 逢(あ)ふこともがな

57.紫式部 めぐり逢(あ)ひて 見(み)しやそれとも わかぬ間(ま)に 雲(くも)がくれにし 夜半(よは)の月(つき)かな

58.大弐三位 有馬山(ありまやま) 猪名(ゐな)の笹原(ささはら) 風吹(かぜふ)けば いでそよ人(ひと)を 忘(わす)れやはする

59.赤染衛門 やすらはで 寝(ね)なましものを さ夜更(よふ)けて 傾(かたぶ)くまでの 月(つき)を見(み)しかな

60.小式部内侍 大江山(おほえやま) いく野(の)の道(みち)の 遠(とほ)ければ まだふみも見(み)ず 天(あま)の橋立(はしだて)

61.伊勢大輔 いにしへの 奈良(なら)の都(みやこ)の 八重桜(やへざくら) けふ九重(ここのへ)に にほひぬるかな

62.清少納言 夜(よ)をこめて 鳥(とり)の空音(そらね)は 謀(はか)るとも よに逢坂(あふさか)の 関(せき)はゆるさじ

63.左京大夫道雅 今(いま)はただ 思(おも)ひ絶(た)えなむ とばかりを 人(ひと)づてならで いふよしもがな

64.権中納言定頼 朝(あさ)ぼらけ 宇治(うぢ)の川霧(かはぎり) たえだえに あらはれわたる 瀬々(せぜ)の網代木(あじろぎ)

65.相模 恨(うら)みわび ほさぬ袖(そで)だに あるものを 恋(こひ)に朽(く)ちなむ 名(な)こそ惜(を)しけれ

66.大僧正行尊 もろともに あはれと思(おも)へ 山桜(やまざくら) 花(はな)よりほかに 知(し)る人(ひと)もなし

67.周防内侍 春(はる)の夜(よ)の 夢(ゆめ)ばかりなる 手枕(たまくら)に かひなく立(た)たむ 名(な)こそをしけれ

68.三条院 心(こころ)にも あらで憂(う)き夜(よ)に 長(なが)らへば 恋(こひ)しかるべき 夜半(よは)の月(つき)かな

69.能因法師 嵐吹(あらしふ)く 三室(みむろ)の山(やま)の もみぢ葉(ば)は 竜田(たつた)の川(かは)の 錦(にしき)なりけり

70.良暹法師 寂(さび)しさに 宿(やど)を立(た)ち出(い)でて ながむれば いづこも同(おな)じ 秋(あき)の夕暮(ゆふぐ)れ

71.大納言経信 夕(ゆふ)されば 門田(かどた)の稲葉(いなば) 訪(おとづ)れて 蘆(あし)のまろ屋(や)に 秋風(あきかぜ)ぞ吹(ふ)く

72.祐子内親王家紀伊 音(おと)に聞(き)く 高師(たかし)の浜(はま)の あだ波(なみ)は かけじや袖(そで)の ぬれもこそすれ

73.権中納言匡房 高砂(たかさご)の 尾(を)の上(へ)の桜(さくら) 咲(さ)きにけり 外山(とやま)の霞(かすみ) 立(た)たずもあらなむ

74.源俊頼朝臣 憂(う)かりける 人(ひと)を初瀬(はつせ)の 山(やま)おろしよ 激(はげ)しかれとは 祈(いの)らぬものを

75.藤原基俊 契(ちぎ)りおきし させもが露(つゆ)を 命(いのち)にて あはれ今年(ことし)の 秋(あき)もいぬめり

76.法性寺入道前関白太政大臣 わたの原(はら) 漕(こ)ぎ出(い)でて見(み)れば ひさかたの 雲居(くもゐ)にまがふ 沖(おき)つ白波(しらなみ)

77.崇徳院 瀬(せ)をはやみ 岩(いは)にせかるる 滝川(たきがは)の われても末(すゑ)に 逢(あ)はむとぞ思(おも)ふ

78.源兼昌 淡路島(あはぢしま) 通(かよ)ふ千鳥(ちどり)の 鳴(な)く声(こゑ)に 幾夜寝覚(いくよねざ)めぬ 須磨(すま)の関守(せきもり)

79.左京大夫顕輔 秋風(あきかぜ)に たなびく雲(くも)の 絶(た)え間(ま)より 漏(も)れ出(い)づる月(つき)の 影(かげ)のさやけさ

80.待賢門院堀河 長(なが)からむ 心(こころ)も知(し)らず 黒髪(くろかみ)の 乱(みだ)れて今朝(けさ)は 物(もの)をこそ思(おも)へ

81.後徳大寺左大臣 ほととぎす 鳴(な)きつる方(かた)を ながむれば ただ有明(ありあけ)の 月(つき)ぞ残(のこ)れる

82.道因法師 思(おも)ひわび さても命(いのち)は あるものを 憂(う)きに堪(た)へぬは 涙(なみだ)なりけり

83.皇太后宮大夫俊成 世(よ)の中(なか)よ 道(みち)こそなけれ 思(おも)ひ入(い)る 山(やま)の奥(おく)にも 鹿(しか)ぞ鳴(な)くなる

84.藤原清輔朝臣 長(なが)らへば またこのごろや しのばれむ 憂(う)しと見(み)し世(よ)ぞ 今(いま)は恋(こひ)しき

85.俊恵法師 夜(よ)もすがら 物思(ものおも)ふころは 明(あ)けやらで 閨(ねや)のひまさへ つれなかりけり

86.西行法師 嘆(なげ)けとて 月(つき)やは物(もの)を 思(おも)はする かこち顔(がほ)なる わが涙(なみだ)かな

87.寂蓮法師 村雨(むらさめ)の 露(つゆ)もまだ干(ひ)ぬ 真木(まき)の葉(は)に 霧立(きりた)ちのぼる 秋(あき)の夕暮(ゆふぐ)れ

88.皇嘉門院別当 難波江(なにはえ)の 蘆(あし)のかりねの ひとよゆゑ 身(み)を尽(つ)くしてや 恋(こ)ひわたるべき

89.式子内親王 玉(たま)の緒(を)よ 絶(た)えなば絶(た)えね ながらへば 忍(しの)ぶることの 弱(よわ)りもぞする

90.殷富門院大輔 見(み)せばやな 雄島(をじま)の海人(あま)の 袖(そで)だにも 濡(ぬ)れにぞ濡(ぬ)れし 色(いろ)は変(か)はらず

91.後京極摂政前太政大臣 きりぎりす 鳴(な)くや霜夜(しもよ)の さむしろに 衣(ころも)かたしき ひとりかも寝(ね)む

92.二条院讃岐 わが袖(そで)は 潮干(しほひ)に見(み)えぬ 沖(おき)の石(いし)の 人(ひと)こそ知(し)らね かわく間(ま)もなし

93.鎌倉右大臣 世(よ)の中(なか)は 常(つね)にもがもな 渚漕(なぎさこ)ぐ 海人(あま)の小舟(をぶね)の 綱手(つなで)かなしも

94.参議雅経 み吉野(よしの)の 山(やま)の秋風(あきかぜ) さよ更(ふ)けて ふるさと寒(さむ)く 衣打(ころもう)つなり

95.前大僧正慈円 おほけなく 憂(う)き世(よ)の民(たみ)に おほふかな わが立(た)つ杣(そま)に 墨染(すみぞめ)の袖(そで)

96.入道前太政大臣 花(はな)さそふ 嵐(あらし)の庭(には)の 雪(ゆき)ならで ふりゆくものは わが身(み)なりけり

97.権中納言定家 来(こ)ぬ人(ひと)を 松帆(まつほ)の浦(うら)の 夕(ゆふ)なぎに 焼(や)くや藻塩(もしほ)の 身(み)もこがれつつ

98.従二位家隆 風(かぜ)そよぐ 楢(なら)の小川(をがは)の 夕暮(ゆふぐれ)は 御禊(みそぎ)ぞ夏(なつ)の しるしなりける

99.後鳥羽院 人(ひと)も惜(を)し 人(ひと)も恨(うら)めし あぢきなく 世(よ)を思(おも)ふゆゑに 物思(ものおも)ふ身(み)は

100.順徳院 百敷(ももしき)や 古(ふる)き軒端(のきば)の しのぶにも なほ余(あま)りある 昔(むかし)なりけり