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ジャーナリズムの条件1 職業としてのジャーナリスト 岩波書店 2005年 【詳細な内容紹介とレビュー】

岩波書店から刊行されたシリーズ「ジャーナリズムの条件」の第1冊めは、『職業としてのジャーナリスト』(2005年)。この第1冊目の編集は、 筑紫哲也氏。この本は非常に読み応えがあります。分担執筆ですが、一つ一つの章に、執筆を担当したジャーナリストの生き様、仕事の進め方、考え方が述べられていて、ジャーナリストという職業がどんなものなのかがわかります。多数の執筆者からなるため、ひとつひとつの章は10ページ程度と、それほど長くはないのですが、なにしろどれも非常に深刻な社会テーマを取り扱っているため、ほんの10ページがどれも「重い」です。

ジャーナリストを志す人にとってはバイブル的な存在になるでしょう。


職業としてのジャーナリスト  (ジャーナリズムの条件 1 岩波書店 2005年)

目次

【総論】ジャーナリストとは何者か 筑紫哲也
I  ジャーナリストの仕事

防衛庁リスト報道の軌跡 (毎日新聞)大治朋子
沖縄返還密約事件を追って (名古屋テレビ)土江真樹子
真実は公的空間で鍛えられる (NHK)桜井均
「少年事件被害者の視点」への転回 藤井誠二
地方発のドキュメンタリー (熊本放送)村上雅通
終わらない戦後 (アジアプレス)柳本通彦
報道カメラマンの仕事 石川文洋
写真の力を信じて 後藤勝
II ニュース・バリューとは何か

「何のために伝えるのか」を基準に (共同通信)石山永一郎
ジャーナリストは何を伝えるのか (朝日新聞)伊藤千尋
視聴率と「伝えたいニュース」 長野智子
豊島の産廃報道 (山陽放送)曽根英二
国際報道とメディアの「ビジネス化」 (学習院女子大)石澤靖治
夕刊タブロイド紙 (日刊ゲンダイ)ニ木啓孝
III ジャーナリストに求められるもの

いま,ジャーナリストの条件とは 原寿雄
ジャーナリストは「養殖場」を飛び出そう (日本インターネット新聞)竹内謙
事件記者に求められる視点と姿勢 大谷昭宏
2つの戦争を取材して (共同通信)原田浩司
萎縮するジャーナリズム (『創』)篠田博之
答えも終わりもないプロセスのなかに (アジアプレス)吉田敏浩
北朝鮮取材とジャーナリスト (アジアプレス)石丸次郎

 

職業としてのジャーナリスト  (ジャーナリズムの条件 1 岩波書店 2005年)

目についたところのメモおよびネットで調べた補足。

【総論】ジャーナリストとは何者か 筑紫哲也

  • 「戦争の最初の犠牲者は真実である」 (p5)
  • In war, truth is the first casualty. Aeschylus(古代ギリシャの詩人アイスキュロス)
  • The first casualty of way is truth. U.S.Senator Hiram Johnson  1918
  • アメリカ人ジャーナリスト ジェームス・レストン(1909-1995) ニューヨーク・タイムズの政治コラムに寄稿。大きな影響力を持っていた。
  • あなたが従軍記者として戦場にいるときに、傍らの兵士が敵弾に倒れた。さて、あなたはどういう行動を取りますか?兵士を助けるのか、取材をそのまま続けるのか?(pp15-16)
  • あなたに、敵国政府から取材の招待がきた。受けますか?辞退しますか?(p17)
  • 敵国の作戦に同行取材している最中に、敵軍は友軍側に待ち伏せ奇襲攻撃を掛けようとしている。あなたは、このような状況でどうしますか?友軍に知らせるのか、取材をそのまま続行するのか?(p17)
  • 大手の新聞の朝刊第一面を読んで、記事の情報の出所が政府(各官庁)、権力者(首相、閣僚、有力政治家)、政党、経済団体、司法機関などと明記されているもの、公式発表されたものを赤鉛筆で囲んでみなさい。取材源(ニュースソース)が権威筋(オーソライズドソース)でないものはどれくらい残りますか?別の会社の新聞でも同様に試してみなさい。(p19)
  • 立花隆『田中角栄研究』文芸春秋1974年11月号 ひとつの記事が政権を倒した稀な例。
  • ワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワード、カール・バーンスタインの調査報道が発端となり、アメリカ大統領ニクソンが辞任に追い込まれたのがウォーターゲート事件。
  • 三十年目の田中角栄研究2004年11月号文芸春秋 立花隆が自身の記事の破壊力について分析
  • 本田靖 -2004 彼が雑誌に書いた記事は、マスコミ志望学生と記者にとってのバイブルとされる
  • 週刊金曜日
  • 松本サリン事件 河野義行さんをめぐる報道

I  ジャーナリストの仕事

防衛庁リスト報道の軌跡 (毎日新聞)大治朋子

  • 「防衛庁が、情報公開請求者の身元を調べ、リストにまとめて一部幹部の間で回覧しているらしい」 奇妙な情報を小耳にはさんだのは、そんな矢先のことだった。” (p49)
  • 調査報道の中には、捜査機関に証拠を持ち込んで、「専門家・権威」と連携してキャンペーンを展開する手法と、捜査機関や役所、専門家が「シロ」というものを「クロ」ではないかと挑む手法がある。防衛庁リスト問題はこの後者パターン” (p51)
  • 「そのリストがコンピューター入力されていたら、「行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報保護法」に抵触するかもしれませんよ」” (p53)

沖縄返還密約事件を追って (名古屋テレビ)土江真樹子

  • 外務省機密漏洩事件
  • 電報文には「基地などに使用された軍用地の復元のための補償金、四〇〇万ドル(当時の約一四億四〇〇〇万円)をアメリカ政府が払ったように見せかけて実は日本政府が肩代わりする」「重要なことは(アメリカ政府が)支払うというように見せかけることである」という内容が記されていた。” (p58)
  • 澤地久枝 著 『密約』

真実は公的空間で鍛えられる (NHK)桜井均

  • NHKスペシャル『薬害エイズ・十六年目の真実~川田龍平 郡司元課長に聞く』1999年7月 被害者と責任者という当事者の直接対話の実現
  • (郡司氏) 血友病患者に知らせることは、患者自身に(濃縮製剤の使用を続けるかどうかの)判断をゆだね、重い課題を背負わせることになる
  • 雑誌『正論』1999年11月号「私が体験したNHKスペシャルの耐え難い作為ー”薬害エイズ”検証を歪めたのは誰か」
  • 1996年2月 郡司ファイル公開
  • 1998年 刑事裁判法廷で検察側が第一回エイズ研究班の「議事録テープ」とそれに対応スル郡司氏手書きによる「議事メモ」を証拠として提出

「少年事件被害者の視点」への転回 藤井誠二

  • 女子高校生コンクリート詰め殺人事件
  • 『少年の街』教育資料出版会1992年
  • 罰がないということは罪がないということだ。罪がないということは、殺されたわが子も存在しなかったということになってしまう、とも宮田さんは言う。つまり、「何もなかった」ことになってしまうのである。 そんな矛盾を指摘してこなかったマスコミは、少年事件を「なかったこと」にする仕組みに手を貸していたことになる。” (p87)

地方発のドキュメンタリー (熊本放送)村上雅通

  • 二〇〇四年一〇月、水俣病関西訴訟の最高裁判決が言い渡され、国と熊本県の法的責任が確定した。” ”それにしても、公式かくにんから四八年にして出た初の最高裁判断は単純明快だった。” (p89)
  • テレビドキュメンタリー『記者たちの水俣病』 2000年
  • テレビドキュメンタリー『水俣病 空白の病像』 2002年
  • いつのまにか大きな歯車に組み込まれ、どうすることもできなくなってしまった個人の叫びを聞く思いがした。” ”いつのまにか出来上がってしまった歯車の正体をつきとめるまで、我々は報道し続けなければならない。” (p98)

終わらない戦後 (アジアプレス)柳本通彦

  • 当時の日本政府は台湾を「内地と区別なきに至らしめる」ことを目標にしました。すなわち、台湾の経済水準を日本並みにし、台湾人を完全な日本人にすることが目標とされたのです。” ”台湾人は日本人らしくなることが求められましたが、日本人と同等の権利や義務はないというご都合主義の支配体制が形作られ、結局、それが日本の敗戦まで続くことになります。” (p100)
  • 『台湾先住民・山の女たちの「聖戦」』 現代書館 2000年
  • 『台湾革命』 集英社新書 2000年

報道カメラマンの仕事 石川文洋

写真の力を信じて 後藤勝

II ニュース・バリューとは何か

「何のために伝えるのか」を基準に (共同通信)石山永一郎

  • APやロイターは一分間に一本以上のペースで次々と原稿を流してくる。外信部の新人にとっては、見出しを瞬時に読み取ってニュース・バリューを選別するのは至難のわざでもあった。” (p131)
  • 「読者が最も熱心に読むニュースは、読者が既に知っているニュースだ」” (p132)(カナダの社会学者マクルーハン「メディア論」)
  • メディアに一般の人々が求めるものは、「何が起きたか」という出来事の伝達だけでなく、出来事への評価、価値づけである” (p132)
  • 「ジャーナリストが伝えるまでこの世にニュースは存在しない」” (p135)
  • 「ジャーナリストが現在重要と思うものがニュースなのだ」” (p140)

ジャーナリストは何を伝えるのか (朝日新聞)伊藤千尋

  • 被害を被っている人々に聞くと、事柄の本質や問題点が分かってくる。それを伝えることで、よりよき社会の実現につながる。ジャーナリストはそのために存在しているのではないか。” (p144)
  • 『狙われる日本―ペルー人質事件の深層』 (朝日文庫) 1997年
  • 自らの納得行く深い取材によって自分の判断を持ち、世の中の流れがおかしければ指摘するのがジャーナリストである。” (p145)
  • 自分がかかわる専門の分野が定まれば、その分野でいつどのような問題が発生しても対応できる準備と瞬発力を備える努力が必要だ。” (p145)
  • 単に発表のまま伝えるのなら、それは役所の広報官と同じ仕事をしたというだけであって、ジャーナリストの仕事ではない。ジャーナリストを名乗るなら批判的精神が必要である。その政策によって市民がどう影響を受けるのか、市民にとってその決定が正しいのか間違っているのか。それをしっかり究明して指摘するのがジャーナリズムである。” (p146)
  • 公正で平等で社会正義が実現された社会、だれもが安心して生きることのできる社会をつくりあげるために報道するのだという意志がない記者は、単に新聞製作会社あるいはテレビ局に勤める会社院でしかないと思う。” (p147)
  • こうしたことは現場に行かないとわからない。安全のみを考えて首都に居座っているなら、けっしてわからない。” (p148)

視聴率と「伝えたいニュース」 長野智子

  • スタンピード現象:視聴者が見たいものにメディアが引きずられ、報道が同一方向へ雪崩のような勢いで走り出す状況 (p152)
  • 2004年4月30日放送 アメリカABCニュース 「ナイトライン~戦没者たち」
  • Ted Koppel solemnly read aloud the names of 721 U.S. servicemen and women killed in the Iraq war during an unusual edition of “Nightline” Friday. https://www.cbsnews.com/news/war-dead-names-read-on-nightline/
  • Titled “The Fallen,” the special “Nightline” broadcast will air Memorial Day, Monday, May 30, 2005, at 11:35 p.m. ET on the ABC Television Network. ABC News Radio will air excerpts of the program. Last year on April 30, 2004, “Nightline” honored the 721 service men and women killed in action and in non-hostile situations in Iraq since the start of the war there. … “Just as it was a year ago, ‘The Fallen’ is about the men and women who have died in our names in Iraq and Afghanistan,” said Ted Koppel. http://abcnews.go.com/Nightline/story?id=786279&page=1
  • スポンサーがターゲットとする視聴者が見たいニュースを提供しようとする結果、各放送局もFOXニュースに追随する愛国報道路線になってしまった。アメリカ全体が同一方向に向かい、異論や議論が許されない空気になってしまったのです。」(ダウウェル教授) (pp154-155)

豊島の産廃報道 (山陽放送)曽根英二

  • 香川県豊島の産業廃棄物不法投棄問題 https://www.youtube.com/watch?v=lg-HoW_kyi4
  • 「豊島事件」と呼ばれる国内最大級の不法投棄が行われ、かつては「ごみの島」と呼ばれた豊島。香川県が豊島住民に産廃の撤去を約束した公害調停の成立から17年。撤去・処理の事業費としてこれまでに約727億円がかかっています。「産廃の撤去完了」という大きな節目を迎えた今、改めて「豊島事件」の教訓を考えます。 https://www.youtube.com/watch?v=PY1RnNFuKK8
  • レイチェル・カーソン『沈黙の春』

国際報道とメディアの「ビジネス化」 (学習院女子大)石澤靖治

  • コロンビアジャーナリズムレビュー https://www.cjr.org/ Who Owns What https://www.cjr.org/resources
  • NBC, CBS, ABCというアメリカの3大ネットワークも規制緩和、金融緩和により企業買収の対象となり、社会的使命よりも企業としての利益重視の姿勢に転換。
  • 湾岸戦争における政府への”加担” 「ペンタゴンの無給職員」。政権側の情報操作に協力する結果に。イラク戦争のときも同様に、政府の思惑に沿った「戦争ゲーム」のような報道。
  • 新聞業界も、テレビや雑誌を抱えるコングロマリットが寡占。ハードニュースの報道から、テレビ的、娯楽的なソフトニュースを取り入れる方向にシフト。

夕刊タブロイド紙 (日刊ゲンダイ)ニ木啓孝

  • ”「王様はハダカだ」と言い続ける(職業的な)猜疑心こそがジャーナリズムではないのか。”  (p183)

 

III ジャーナリストに求められるもの

いま,ジャーナリストの条件とは 原寿雄

  • 1952年 大分県菅生村駐在所爆破冤罪事件 権力の恐ろしさ 犯罪防止を責務とする警察が、国の治安を口実に犯罪を企み、現職警官をスパイに使って目標の人物たちを駐在所前におびき寄せ、爆破工作をして逮捕
  • 戦争報道は「発表ジャーナリズム」の極致
  • 1991年国際新聞編集者境界総会(京都) K・v・ウォルフレン記者「先進国でここほど組織的検閲が行われている国はない。日本は自己検閲研究家のための理想郷だ」 (p198)

ジャーナリストは「養殖場」を飛び出そう (日本インターネット新聞)竹内謙

  • 2002年新聞協会編集委員会(マスコミ各社の編集局長で構成)の見解 記者室が公有財産の目的外使用に当たらない根拠として、旧大蔵省管財局長通達(1958年)
  • 旧大蔵省管財局長通達(1958年)「国の庁舎等の使用又は収益を許可する場合の取扱の基準について」 ”国の事務、事業の遂行のため”に国が提供する施設として、警察官詰所、新聞記者室などが挙げられている。
  • 政治家の発言や役所の発表はそれぞれのホームページに任せておけばいい。それよりも、そうした発言や発表の真意や背景を突き止める材料を日頃から蓄積しておくことの方が、「国民の知る権利」にこたえる有効な活動になる” (p207)
  • 立花隆「田中角栄研究」(文芸春秋1974年11月号)
  • 児玉隆也「淋しき越山会の女王」(文芸春秋1974年11月号)
  • 田中首相はなんの説明もできないまま、一ヵ月半後に退陣に追い込まれた。 立花隆氏の「田中角栄研究」は調査報道とはいえ、ほとんどは公然化しているデータを分析したリポートで、マスコミにもできないことではなかった。” (p207)

北朝鮮取材とジャーナリスト (アジアプレス)石丸次郎

  • 質問者の意図を深読みして、過剰な表現でサービスしたり、知ったかぶりすることがある。また一方で、喋ったことが不利益にならないか心配しすぎて、本心を表さないことも多い。” (p254)

 

職業としてのジャーナリスト  (ジャーナリズムの条件 1 岩波書店 2005年)

ジャーナリストとはいかなる職業なのか?第一線で活躍する多数のジャーナリストが何の事件をどう報道したのか、豊富な実例によりジャーナリストの仕事のやりかた、考え方、心の動きがわかる好著。ジャーナリストを志す人にとっては素晴らしい教科書になるであろう。