”竹村本”(竹村彰通『現代数理統計学』)の67~68ページに、
期待値の線形性や分散に関する公式を用いれば
$E[\bar{X}]=μ, Var[\bar{X}]=σ^2 / n $
となる あります。左半分は、標本平均の期待値が母平均μであるこというわけで、どの統計学の教科書にも書いてあることです。なんとなく明らかに思えて、今まで疑問に思ったことがありませんでした。しかし数学書に「~となる」と書いてあれば、それはかならず証明しなければならないことであって、証明が書いていなければ読者が自ら証明する必要があります。
線形性というのは、確率変数の定数倍の期待値は、その確率変数の期待値の定数倍になること(定数が外に出ること)や、和の期待値は期待値の和になることです。
$E[\bar{X}] = E[ X1+X2+…+Xn / n ]$
=(1/n) E[X1+X2+…+Xn ]
=(1/n)(E[X1]+E[X2]+…+E[Xn])
=(1/n)(μ+μ+…+μ)
=(1/n) nμ
=μ
で証明できたと思いますが、自分がひっかかったのはE[X1]=μがなぜなりたつのかということ、もっといえば、X1やX2やXnは「標本」だったはずなのに、なぜそれが確率変数として扱われているのかという点でした。概念的な部分で引っ掛かったのです。X1やX2やXnを具体的な数だと思っていたわけですね。そもそもXとかX1とかX2とかXnとかって何だっけ?と思ってこの本の前のぺージを見て見たら、
母集団からの標本抽出においてX1, … Xnが確率変数であるのは、標本抽出が作為に確率的におこなわれるからである。(66ページ)
標本として抽出された特性値の値をX1, … Xnとする。X1, …, Xnは標本抽出にともなう確率変数である。(64ページ)
などと、繰り返し、X1などが「確率変数」であることが説明されていました。俺の目は節穴かい?実は、この教科書を拾い読みしていたので、前のぺージをしっかりとは読んでいませんでした。いや、読んでも素通りしていただけかもしれません。あきめくら状態ですね。
また、ヤフー知恵袋に、自分と全く同じ疑問を持った人の投稿がありました。
なぜ標本1つの期待値が母平均と同じなのかがさっぱり分かりません。また、平均や期待値は集合に対して求めるから意味があるのであって、標本1つの期待値を求めることにどんな意味があるのでしょうか?(YAHOO!JAPAN知恵袋)
それに対する答えは、
ある特性の平均が、μであるような集団があります。この中から1つを選びました。まだその特性の測定はしていません。これを測定したら、最も可能性のある値はいくつでしょう?これが期待値です。(YAHOO!JAPAN知恵袋)
というもので、これを見てようやく納得できました。自分が数学が苦手な理由は、こういう概念的な部分の理解が出来ていないことに自分でなかなか気づけないでいるからなのかなと思います。
「知らざるを知る、これ知るなり」という孔子の言葉を思い出します。こういう地味な努力を積み重ねていけば、数学に関して、いつか目の前が開けるような感覚を得ることができるのでしょうか。
参考(自分と同じ疑問に関する解説)
- 標本1つの期待値を求めることにどんな意味があるのでしょうか?(YAHOO!JAPAN知恵袋)
- 標本平均の期待値が母平均と等しくなることの証明 MochaNote “実データではあるもののその実態は確率変数にすぎない”
標本平均の期待値が母平均であることの証明
- 標本平均と標本分散 標本平均の期待値 = 母平均 risalc.info
- 確率変数の平均と分散—期待値の計算について 新保一成 2011 年 6 月 8 日 fbc.keio.ac.jp