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陽子や中性子はクォークからできている?実験的証拠は?理論的根拠は?

プロンプト:陽子や中性子が、さらにクォークに分かれるということの実験的証拠は何?実験結果と、理論とどっちが先だった?

Gemini 2.5 Pro:

陽子や中性子がクォークからできているという最も強力な実験的証拠は、1960年代末に行われた「深非弾性散乱(しんひだんせいさんらん)」と呼ばれる実験です。

そして、理論が実験よりも先でした。


🧐 理論と実験、どちらが先だった?

理論が先です。

  1. 理論(1964年):物理学者のマレー・ゲルマンジョージ・ツバイクが、当時次々と発見されていた多くの粒子(ハドロン)をすっきりと分類する方法として、「クォークモデル」を独立に提唱しました。これは、陽子や中性子などが、さらに小さな3つの粒子(クォーク)からできているとする理論でした。ただし、この時点ではまだ数学的な模型のようなもので、クォークが実在の粒子かどうかは不明でした。
  2. 実験(1969年頃):後述するスタンフォード線型加速器センター(SLAC)での実験によって、陽子の中に「点状の硬い粒」が存在する証拠が発見されました。これが理論的に予言されていたクォークであると裏付けられました。

🔬 実験的証拠:「深非弾性散乱」

この決定的な実験は、スタンフォード線型加速器センター(SLAC)で、ジェローム・フリードマン、ヘンリー・ケンドール、リチャード・テイラーらによって行われました(彼らはこの功績で1990年にノーベル物理学賞を受賞しています)。

実験の概要

この実験は、かつてラザフォードが金箔にアルファ粒子を当てて原子核を発見した実験の「現代版」とも言えます。

  • 何を?: 非常に高いエネルギーまで加速した電子を、標的である陽子(や中性子)に撃ち込みました。
  • どうやって?: 陽子に当たって跳ね返ってきた(散乱された)電子の角度やエネルギーを詳しく測定しました。
  • なぜ電子?: 電子は(私たちが知る限り)内部構造を持たない「点」の粒子であり、物質の内部を探る「探針」として理想的だったためです。

何が「証拠」になったのか?

もし陽子が、内部構造のない均一なのっぺりとした粒子(例えば、ビリヤードの球のようなもの)だとしたら、電子はぶつかっても大きく跳ね返ることはまれだと予想されていました。

しかし、実験結果は全く異なりました。

実験結果:

多くの電子は陽子を通り抜けるか、わずかに軌道が曲がるだけでしたが、ごくまれに、電子がカチンと硬いものに当たったかのように、非常に大きな角度で強く弾き返される現象が観測されました。

これは、陽子の内部が均一なのではなく、中心にいくつかの「硬い芯」(点状の粒子)が詰まっていることを示していました。

この陽子内部の「点状の粒子」(当時は「パートン」と呼ばれました)こそが、ゲルマンらが予言したクォークであると結論付けられたのです。これが、陽子や中性子が複合粒子であることの動かぬ証拠となりました。

 

プロンプト:陽子の中の3つのクォークの間は、スカスカなの?クォーク同士を結び付けるのは「強い力」?原子核において、陽子同士を結び付けるのも同じく「強い力」?

Gemini 2.5 Pro:ご質問ありがとうございます。陽子の内部構造と「強い力」に関する3つの疑問について、順番にお答えします。


1. 陽子の中の3つのクォークの間は、スカスカなの?

いいえ、「スカスカ」ではありません。

クォーク自体は大きさを持たない「点」のような粒子だと考えられていますが、クォークとクォークの間は「何もない真空」ではありません。

その空間は、力を伝える粒子である「グルーオン」(糊粒子)が飛び交い、さらに仮想的なクォークと反クォークのペアが絶えず生まれたり消えたりしています(これらは「海のクォーク」と呼ばれます)。

陽子の質量のほとんどは、このグルーオンのエネルギーや「海のクォーク」が生み出しており、3つのクォーク(これらは「価クォーク」と呼ばれます)自体の質量は、陽子全体の質量のわずか数パーセントに過ぎません。

したがって、陽子の内部は「何もない空間」どころか、エネルギーと力で満たされた非常にダイナミックな場所と言えます。


2. クォーク同士を結び付けるのは「強い力」?

はい、その通りです。

陽子の中で3つのクォークをバラバラにならずに結びつけているのは、「強い相互作用」、通称「強い力」です。

  • この力は、クォークが持つ「色の電荷(カラーチャージ)」という特別な種類の電荷によって働きます。
  • この力を媒介するのが、先ほど登場した「グルーオン」です。

3. 原子核において、陽子同士を結び付けるのも同じく「強い力」?

はい、これも根本的には同じ「強い相互作用(強い力)」です。

ただし、クォーク間にはたらく力とは、力の現れ方が少し異なります。一般に、原子核の中で陽子や中性子(これらを総称して「核子」と呼びます)を結びつける力を「核力(かくりょく)」と呼びます。

この2つの「強い力」の関係は、次のように理解されています。

  • クォーク間の力(基本的な強い力):陽子や中性子の「内部」で、グルーオンがクォーク同士を直接結びつける力。非常に強力です。
  • 核子間の力(核力):陽子や中性子の「間」で働く力。これは、クォーク間にはたらく基本的な強い力が「漏れ出した」もの(残留力)と考えることができます。

例えるなら、クォーク間の力が「原子核と電子を結びつける電磁気力」だとすると、「核力」は「(電気的に中性な)原子同士が結びついて分子を作るときの力(ファンデルワールス力など)」に似ています。どちらも根本は電磁気力ですが、現れ方が異なります。

核力」は、より具体的には、陽子や中性子の間で「中間子(特にパイ中間子)」という粒子が交換されることによって生じると説明されます(湯川秀樹博士の中間子論)。この中間子自体もクォークと反クォークからできており、核力の根源はクォークとグルーオンの「強い相互作用」にある、というわけです。

 

プロンプト:クォーク同士は、グルーオンで結合していて、陽子同士はパイ中間子で結合しているということね。陽子同士は近いのだから、隣の陽子同士で、それぞれのクォークを交換しちゃったりはしないわけ?

Gemini 2.5 Pro:

素晴らしい洞察です!

実は、「(パイ)中間子を交換する」ことこそが、実質的に「クォーク(と反クォークのペア)を交換している」ことに他なりません。

ただし、ご想像されたかもしれない「陽子Aのクォークが1個だけ陽子Bに飛び移る」といった形での交換は起こりません

これには「色の閉じ込め」という、強い力の非常に重要なルールが関係しています。


1. 「中間子の交換」 = 「クォークと反クォークの交換」

まず、前提の確認です。

  • 陽子A(クォーク3個)
  • 陽子B(クォーク3個)

ご認識の通り、この2つの陽子を結びつける「核力」は、主に「パイ中間子」の交換によって生じます。

そして、そのパイ中間子は「1個のクォーク」と「1個の反クォーク」がペアになってできた粒子です。

したがって、「陽子がパイ中間子を交換する」という現象は、ミクロに見れば以下のようなプロセスです。

  1. 一方の陽子(内部のクォーク)が、エネルギーを使って「クォークと反クォークのペア(=パイ中間子)」を生成します。
  2. そのパイ中間子が、隣の陽子に吸収されます。

このプロセス全体を見ると、陽子間で「クォークと反クォークのペア」がやり取りされていることになります。これが、ご質問の「クォークの交換」の実態です。


2. なぜ「クォーク単体」では交換できないのか?

では、なぜ「陽子Aからクォーク1個だけ」が陽子Bに移ることはないのでしょうか?

それは、「色の閉じ込め(カラー・コンファインメント)」という絶対的なルールがあるからです。

  • クォークやグルーオンは、「色の電荷(カラーチャージ)」(赤・緑・青のようなもの)を持っています。
  • この「色の電荷」は、単独で(むき出しの状態で)存在することができません。必ず、色が「」(中性)になる組み合わせでしか存在できません
  • 「白」になれる組み合わせは以下の2パターンだけです。
    1. バリオン(陽子など): クォーク3個(例:赤+緑+青=白
    2. メソン(中間子など): クォーク1個と反クォーク1個(例:赤+反赤=白

もし、陽子A(白)からクォーク1個(例えば「赤」)だけが飛び出して陽子B(白)に移ると、陽子Aは「緑・青」だけになり、陽子Bは「赤・赤・緑・青」になってしまい、どちらも「白」ではなくなってしまいます。

これはルール違反なので、絶対に起こりません。

だからこそ、陽子間で力を媒介(交換)するのは、必ず「クォークと反クォークのペア(=パイ中間子)」という、それ自体で「白」い(色を持たない)粒子の形をとる必要があるのです。


(補足)極端な状態では…

ただし、これは陽子や中性子が「個別の粒子」として存在している場合の話です。

もし原子核が、中性子星の内部や、宇宙誕生直後のような超高温・超高密度の状態に置かれると、陽子や中性子といった「袋」そのものが溶けてしまいます。

すると、クォークやグルーオンが(色の閉じ込めは保ったまま)スープのように混じり合い、自由に動き回る状態(クォーク・グルーオン・プラズマ:QGP)になると考えられています。

この状態では、もはや「どのクォークがどの陽子のもの」という区別がなくなり、まさにクォークがごちゃ混ぜに「交換」されている状態と言えるかもしれません。

 

プロンプト:さっき、陽子に内部構造が存在する実験的証拠として、加速した電子を陽子にぶつけたら、ほとんどが素通りしたって言わなかった?クォーク間がグルーオンで満たされているのなら、素通りするっておかしくない?

Gemini 2.5 Pro:

鋭いご指摘です。その疑問は、物理学の基本的な「力」の違いを理解する上で非常に重要です。

前回の説明(電子が素通りする)と今回の説明(グルーオンで満たされている)は、矛盾していません

その理由は、探針である「電子」が、何と反応し、何を「無視」するかにかかっています。


🔑 鍵は「電子がどの力で反応するか」

自然界には4つの基本的な力がありますが、この実験で関係するのは「電磁気力」と「強い力」です。

  • 電子:マイナスの「電荷」を持っています。そのため、「電磁気力」は感じますが、「強い力」の源である「色の電荷」は持っていません。
  • クォーク:「電荷」(+2/3や-1/3)と「色の電荷」の両方を持っています。
  • グルーオン:「色の電荷」は持っていますが、「電荷」は持っていません(ゼロです)。

結論:電子はグルーオンを「すり抜ける

実験で陽子に撃ち込まれた「電子」は、「電荷」を持つ粒子です。

したがって、電子は同じく「電荷」を持つクォークとは電磁気力で激しく反発(衝突)しますが、「電荷」を持たないグルーオンとは(直接的には)相互作用しません

  • 陽子の内部がグルーオンで「満たされている」のは事実です。
  • しかし、電子にとって、そのグルーオンは(電荷がないため)「透明」な存在のようなものです。電子はグルーオンの海を「すり抜け」ます。
  • そして、電子が陽子の内部で「ごくまれに大きく弾き返された」のは、陽子内部に点在する、電荷を持った「硬い芯 = クォーク」に正面衝突したからなのです。

「素通り」という表現について

前回の説明で「ほとんどが素通りした」という表現を使ったのは、ラザフォードの実験(原子核の発見)との対比のためです。

より正確に言えば、陽子に当たった電子のほとんどは、

  1. 内部のクォークに「かすり」もしなかった。
  2. あるいは、クォークに正面衝突せず、陽子全体とぼんやりと相互作用して、わずかに軌道が曲がった。

という状態です。そして、決定的な証拠となったのが、

  • ごくまれに観測された「大きな散乱(衝突)」

でした。

この「大きな散乱」が、陽子の内部がのっぺりしたものではなく、電荷を持った「点状の粒(クォーク)」が存在する証拠となりました。グルーオンがいくら満たされていても、それらは電荷を持たないため、電子を大きく弾き返すことはできなかったのです。


こちらの動画では、クォーク同士がグルーオンによってどのように結びついているか(強い力)が視覚的に説明されています。

格子QCD計算によるクォークからハドロンへの道のり

この動画は、陽子の内部でクォークやグルーオンがどのように相互作用しているかについての理論的な計算(格子QCD)を解説しており、内部が単なる空間ではないことを理解する助けになります。

 

プロンプト:陽子や中性子に電子を当てた実験ということは、そのときの陽子は水素原子とかじゃなくて、剥き出しの陽子?そんなこと可能?陽子に電子をあてると、結局、電磁力が働いて、ラザフォードの実験と全く同じことにならない?つまり、陽子の中をすり抜けたりできずに、散乱されるんじゃないの?何が違い?当てる電子のエネルギー?

Gemini 2.5 Pro:その通りです。核心を突いています。ご質問の3点「標的」「電磁気力」「エネルギー」は、まさにこの実験を理解する鍵です。

結論から言うと、ラザフォードの実験との最大の違いは、ご指摘の通り「当てる電子のエネルギー」です。


1. 標的は「剥き出しの陽子」だったか?

はい、**実質的に「剥き出しの陽子」**です。

この実験(SLACでの深非弾性散乱)では、標的として主に液体水素(液化したH₂)が使われました。

  • 水素原子は、ご存知の通り「陽子1個」と「電子1個」だけでできています。
  • そこにギガ電子ボルト(GeV)という超高エネルギーの電子を撃ち込みます。
  • 撃ち込まれた電子のエネルギーは、水素原子が陽子に束縛されているエネルギー(原子核と電子を結びつける力)に比べて桁違いに大きいため、原子内の電子は無視できます。
  • つまり、実験は**「超高エネルギーの電子」対「ほぼ静止している陽子」**の衝突を見ていることになり、まさに「剥き出しの陽子」に当てているのと同じです。

2. 電磁気力で散乱されるのでは?(ラザフォード実験との違い)

ご指摘の通り、電子(マイナス)と陽子(プラス)の間には電磁気力が働きます

では、なぜラザフォードの実験(原子核の発見)と結果が違ったのでしょうか? それは、エネルギーの違いが「波長」の違いを生むからです。

量子力学の世界では、すべての粒子は「波」の性質も持っています(ド・ブロイ波)。そして、その波長はエネルギーが高いほど短くなります。

🔬 ラザフォードの実験 (低エネルギー)

  • 探針: アルファ粒子(ヘリウム原子核)
  • エネルギー: メガ電子ボルト(MeV)程度(当時の技術ではこれが高エネルギーでした)
  • 波長: ある程度の「長さ」を持つ。
  • 見え方: アルファ粒子の波長は、陽子(原子核)全体の大きさ(約 $10^{-15}$ m)と比べて、それより内側を詳しく見れるほど短くはありませんでした。
  • 結果: アルファ粒子は、陽子(や金原子核)を「ひとまとまりの、プラスの電荷を持った球」として認識しました。そのため、電磁気力で(陽子全体と)反発して散乱しました。

    例えるなら:

    大きなビーチボール(波長の長いアルファ粒子)を、小さなビー玉(陽子)に当てようとしているようなものです。ボールが大きすぎて、ビー玉の「中身」は探れず、全体と「ゴツン」とぶつかるだけです。

🔬 深非弾性散乱 (超高エネルギー)

  • 探針: 電子
  • エネルギー: ギガ電子ボルト(GeV)程度(ラザフォードの1000倍以上
  • 波長: 極めて短い。陽子全体の大きさよりもずっと短くなります。
  • 見え方: 電子の波長は、陽子の「内部」を解像できるほど短くなっています。
  • 結果:
    1. 電子は、陽子を「ひとまとまりの球」とは認識せず、その**内部に「侵入」**します(これが「すり抜ける」という表現の元です)。
    2. 陽子の内部が「空っぽ」なら、そのまま通り抜けます。
    3. しかし、内部に「点状の硬い粒(=クォーク)」があったため、ごくまれに電子はそのクォークと電磁気力で正面衝突(カチン!)し、大きく弾き飛ばされました。

例えるなら:

非常に細く鋭い針(波長の短い高エネルギー電子)で、中身の詰まった粘土玉(陽子)を突いているようなものです。

  • ほとんどの場合、針はクォークとクォークの「すきま」(グルーオンの海)を素通りします(この時、電子はグルーオンとは反応しません)。
  • ごくまれに、針が粘土玉の中にある「小さな硬いビー玉」(クォーク)の先端に直撃します。これが「大きな散乱」です。

まとめ

  • ラザフォードの実験:エネルギーが「低かった」ため波長が長く、陽子(原子核)全体と電磁気力で散乱した。
  • SLACの実験(深非弾性散乱):エネルギーが「高かった」ため波長が極めて短く、陽子の内部に侵入し、その中にある個々のクォークと電磁気力で散乱した。

「ほとんどが素通りした(=クォークに当たらなかった)」ことと、「ごくまれに大きく散乱した(=クォークに当たった)」ことの両方が、陽子の内部が「のっぺりした球」ではなく、「点状の硬い粒(クォーク)が点在する空間」であることの証拠となったのです。

 

プロンプト:液化したH₂? Hじゃなくて?

Gemini 2.5 Pro:

はい、ご指摘の通り、H(水素原子)ではなく H₂(水素分子) です。

水素という物質は、自然界では単独の原子(H)としては非常に不安定で存在できず、必ず2つの原子がペアになった水素分子(H₂) という形で存在します。

実験で「液体水素」を使うのは、気体のままでは密度が低すぎて電子がなかなか陽子に当たってくれないため、極低温(約-253℃)まで冷やして液体にし、高密度な「陽子の標的」を作るためです。

「分子だと、陽子2個が邪魔し合わないの?」

と疑問に思われるかもしれませんが、そこでもやはりエネルギーの違いが決め手になります。

  • H₂の結合エネルギー(HとHを結びつける力): 数eV(エレクトロンボルト)程度
  • 撃ち込む電子のエネルギー: 数GeV(ギガ電子ボルト)= 数十億eV

撃ち込む電子のエネルギーは、分子を結びつけている力の10億倍以上も強力です。

そのため、高エネルギーの電子にとって、H₂分子の結合は「ティッシュペーパー」のようなもので、何の障害にもなりません。電子は、液体水素の中にある2つの陽子を、それぞれ独立した「ほぼ静止している標的」として認識し、そのどちらか一方に(運が良ければ)衝突します。

したがって、実験結果を分析する上では「標的はH₂だった」と考える必要はなく、「標的は(H₂が2個分あるので)陽子だった」と単純に考えて問題ないのです。

 

プロンプト:で、その実験で、陽子の内部にクォークが「3つ」ってわかったの?数まで同定できたの?

Gemini 2.5 Pro:

これは非常に鋭い質問です。

結論から言うと、その実験(深非弾性散乱)は、「内部に3個の粒子がある」と単純に数を数え上げたわけではありません

「陽子=クォーク3個」という概念は、実験よりも先に存在した**理論(クォークモデル)**から来ています。

では、実験は何を明らかにしたのでしょうか?


1. 理論:「3個」という予測 (1964年)

まず、「3個」という数字は、SLACの実験(1969年頃)より先に、マレー・ゲルマンらが提唱したクォークモデルに由来します。

  • 当時、陽子や中性子以外にも多くの粒子(ハドロン)が見つかっており、収拾がつかなくなっていました。
  • ゲルマンらは、これらの粒子が、電荷が +2/3の「アップクォーク」や -1/3の「ダウンクォーク」などの基本的な粒子の組み合わせでできていると考えると、きれいに分類できることを発見しました。
  • この理論モデル(いわば「素粒子の周期表」)に当てはめると、
    • 陽子 (電荷 +1) は→アップ (+2/3) + アップ (+2/3) + ダウン (-1/3) = 3個
    • 中性子 (電荷 0) は→アップ (+2/3) + ダウン (-1/3) + ダウン (-1/3) = 3個
  • ・・・とすると、すべての計算がピッタリ合ったのです。この時点では、あくまで理論上の「分類法」でした。

2. 実験:何を「確認」したか (1969年)

SLACの実験は、この「理論上の存在」だったクォークが、「本当に陽子の中で物理的に実在する粒である」ことを証明しました。

実験が直接的に示したのは「3個」という数ではなく、以下の2点です。

① 点状の粒子が「実在」すること

「ラザフォードの実験との違い」で説明した通り、電子がごくまれにカチンと大きく弾き返されたことから、「陽子の内部に、点状の硬い芯がある」ことが確定しました。

② その粒子の「電荷が分数」であること

これが決定的な証拠です。

実験では、陽子に電子を当てた場合と、中性子(重水素の原子核を使用)に電子を当てた場合の「散乱のされやすさ(散乱断面積)」を比較しました。

  • もし、陽子や中性子の内部にある粒子が、電子と同じ整数(例えば+1や-1)の電荷を持っていたとしたら、散乱の「比率」は、ある特定の値になるはずでした。
  • しかし、実際に観測された散乱の比率は、その予測とは全く異なりました。
  • そして、その観測された比率は、「陽子=uud」「中性子=udd」というクォークモデルが予測する分数の電荷(+2/3と-1/3)を持つ粒子が内部にあると仮定した場合の計算値と、完璧に一致したのです。

まとめ:実験が示した「複雑な内部構造」

つまり、SLACの実験は「陽子の中に1, 2, 3…と数えられる粒子が3個ありました」と報告したのではありません。

実験が示したこと:

陽子の内部には、クォークモデルが予言した通りの「分数電荷」を持つ、点状の粒子(クォーク)が確かに実在する。

ただし、この実験は同時に、話がそう単純ではないことも明らかにしました。

データを詳細に分析すると、陽子の全エネルギーのうち、これら3個のクォーク(価クォークと呼ばれます)が持つエネルギーは半分程度しかないことが判明しました。

残りの半分は、

  • グルーオン(電子と反応しない)
  • 絶えず生成・消滅を繰り返している無数の「海のクォーク」(クォークと反クォークのペア)

が持っていることが分かりました。

したがって、陽子の内部は「3個のクォークがポツンとある」のではなく、「3個の主役(価クォーク)が、グルーオンと無数の脇役(海のクォーク)の熱狂的なスープ(海)の中にいる」という、非常にダイナミックな姿だったのです。