人間はどこから来て、どこへ行くのか?人間とは何か?という疑問に対する答えを知りたい。進化学は、そんな疑問に答えてくれる学問の一つです。進化は一度きりのことであり、実験室で再現性良く確かめられるようなものを対象とする学問とはちょっと毛色が違います。当然、諸説入り乱れて決着が未だについていないことが多いので、学ぶにしても知識を鵜呑みにせずに、誰が何を根拠にどんな仮説を立てているのか、どれくらいそれが研究者の間で受け入れられているのか、どんな対立する仮説があるのかなどに注意して学ぶ必要があります。
さて、そんな今現在もどんどん”進化”し続けている進化学という学問を学ぶのに最適な教科書は何でしょうか?
岩波書店が2004年~2006年に刊行した全7冊の「シリーズ進化学」は、日本の進化学者らが結集して現代の進化学の動向をわかりやすく熱意をこめて解説した教科書です。進化関連分野の研究者から、進化に興味のある一般の人まで幅広い読者を想定して書かれているせいか、説明のわかりやすさに気が配られているように思います。
シリーズの編者は、石川 統(東京大学名誉教授)、斎藤成也(国立遺伝学研究所教授)、佐藤矩行(京都大学教授)、長谷川眞理子(早稲田大学教授)の4名。編者の言葉には、熱い想いがこもっています。
生物学は生物進化の原因と結果を明らかにする学問であると言われるように,丸ごとが「進化学」そのものである.しかし,必ずしもこのことがよく理解されてはいないように思われる.その表れの1つは,「進化論」という言葉が未だに少なからず使われることである.進化論と言えば,それは1つの考え方ということになる.しかし,進化は単なる考え方や思想ではなく厳然たる事実である.本シリーズでは,生命現象のさまざまなレベルと角度から実例を挙げて,説得力をもって事実としての進化を示す.また,進化は事実であるが,同時に,進化の要因と道筋は大部分が未解明である.それを研究するのが進化学である.研究には仮説が不可欠であり,これからの研究が待たれている部分の多い進化学では,多数の仮説が並立している.本シリーズではその熱い議論も提示する.
読者にこの分野の熱気が伝わることを期待している.(参考:岩波書店)
各巻のタイトルと目次は以下のとおりです(参考:岩波書店)。
第1巻 マクロ進化と全生物の系統分類
40億年におよぶ生物進化の大きな流れを追究する.近年,新たな化石資料の発見と遺伝子解析の両面から,驚くべき成果が上がっている.祖先たちの目を見張る姿を紹介し,大量絶滅を進化の文脈で位置づける.
序章 ヒト,地球,生命,そして進化 (佐藤矩行)
1章 進化がもたらした多様性の認識――分類学の挑戦
(柁原 宏・馬渡峻輔 北海道大学)
2章 分子系統でたどる生物の歴史 (長谷川政美 統計数理研究所)
3章 先カンブリア時代からカンブリア紀の生命の歴史 (大野照文 京都大学)
4章 植物化石が語る進化 (西田治文 中央大学)
5章 絶滅という進化 (川上紳一 岐阜大学)
結び 縦軸進化学のすすめ (石川 統)
発売日:2004年12月 ISBN:9784000069212
第2巻 遺伝子とゲノムの進化
生物の進化は遺伝子とゲノムの進化でもある.最新の解析手法によって,進化はどのように読み解けるのか.基礎から説き起こし,ゲノム全体を俯瞰する視座まで提供する.話題の古代DNAに1つの章を当てる.
序章 遺伝子を軸とする進化研究の発展 (斎藤成也)
1章 遺伝子進化のメカニズム (斎藤成也)
2章 タンパク質の進化 (藤 博幸 九州大学)
3章 ゲノムはなぜ変わるのか――原核生物を中心に (小林一三 東京大学)
4章 多細胞生物の進化とゲノム (川島武士 京都大学・佐藤矩行)
5章 古代DNA (植田信太郎 東京大学・斎藤成也)
結び (五條堀孝 国立遺伝学研究所)
発売日:2005年11月 ISBN:9784000069229
第3巻 化学進化・細胞進化
化学物質から生命はいかに誕生したのか.細胞という複雑な単位が生み出され,今日の形へと至った道筋は,どのようなものだったのか.性のシステムやウイルスなどの進化も合わせて論じ,細胞への見方を新たにする.
序章 生物はどのようにして生まれたか (石川 統)
1章 細胞の起源 (山岸明彦 東京薬科大学)
2章 細胞の進化 (石川 統)
3章 性の起源と進化 (河野重行 東京大学)
4章 非細胞生命体の進化 (渡辺雄一郎 東京大学)
5章 生命の起原の研究に向けて (大島泰郎 東京薬科大学)
結び 生命の初期進化と生物学の目標 (石川 統)
発売日:2004年08月 ISBN:9784000069236
第4巻 発生と進化
生物の多様な形態は,その発生の過程を通して現れる.驚くべきことに,生物は基本的に同じ発生関連遺伝子群を使って進化してきたことが明らかになった.活況を呈する分野の成果を広い視野から解説する.
序章 生物界の広がりと体制の多様性 (佐藤矩行・長谷部光泰)
1章 現代進化発生学の勃興──遺伝子の普遍性と進化
(野地澄晴 徳島大学・佐藤矩行)
2章 動物の発生と進化
(佐藤矩行・野地澄晴・倉谷 滋 理化学研究所)
3章 植物の発生と進化 (長谷部光泰 基礎生物学研究所)
4章 発生と進化の研究史 (倉谷 滋)
結び 進化発生学の新たな幕開け (佐藤矩行)
発売日:2004年06月 ISBN:9784000069243
第5巻 ヒトの進化
私たち人間という生物は,どのような進化の道筋を経て出現したのか.化石をもとにした形態学的研究と,遺伝子の比較を手がかりにした分子進化学から,ヒトの進化の流れを示す.そして最近注目されている問題として,脳の進化,心と行動・文化の出現,言語の獲得について最新の知見を紹介し,人類進化学と人類そのものの将来を考える.
序章 人類進化の研究が世界観に与えてきた影響 (斎藤成也)
1章 化石からみた人類の進化 (諏訪 元 東京大学)
2章 遺伝子からみたヒトの進化 (颯田葉子 総合研究大学院大学・斎藤成也)
3章 脳の進化 (山森哲雄 基礎生物学研究所)
4章 人間の本性の進化を探る (長谷川眞理子)
5章 言語の起源と進化 (岡ノ谷一夫 理化学研究所)
結び 学融合的科学としての人類進化学 (長谷川眞理子)
発売日:2006年08月 ISBN:9784000069250
第6巻 行動・生態の進化
生物の行動はなぜ進化し,今日の生態をもたらしたのか.一見不可解に見える利他的行動や社会的行動には,どのような進化的推進力が働いているのか.性淘汰,コミュニケーションの進化,植物と動物の共進化も扱う.
序章 行動の進化を探る(長谷川眞理子)
1章 個体の行動の進化 (河田雅圭 東北大学)
2章 血縁淘汰・包括適応度と社会性の進化
(辻 和希 琉球大学)
3章 性淘汰の理論 (長谷川眞理子)
4章 コミュニケーションと信号の進化
(田中嘉成 中央大学)
5章 共進化 (佐々木 顕 九州大学)
結び 動物行動の進化研究(長谷川寿一 東京大学)
発売日:2006年06月 ISBN:9784000069267
第7巻 進化学の方法と歴史
考え方としての「進化論」から,仮説と検証による科学としての「進化学」へ.今日的な観点から過去の研究・学説を位置づけし,新しい方法論を展開する.分子進化,数理モデル,試験管内の実験進化手法などを紹介.
序章 進化という歴史科学の生成と変遷 (長谷川眞理子)
1章 進化論の歴史 (八杉貞雄 都立大学)
2章 進化生物学の成立 (粕谷英一 九州大学)
3章 形態進化と分子進化の関係 (宮田 隆 生命誌研究館)
4章 実験で進化を創る (四方哲也 大阪大学)
5章 生物の進化と適応の数理 (巌佐 庸 九州大学)
結び 社会の中の進化学 (石川 統)
発売日:2005年05月 ISBN:9784000069274