森本あんり『反知性主義 アメリカが生んだ「熱病」の正体』新潮社2015年

著者の森本あんり氏は、1956年生まれで国際基督教大学(ICU)の教員で牧師。この本はアメリカという国を理解するためには、アメリカのキリスト教を理解する必要があるとして、その解説を行なうものです。

「神と人間との契約」という概念

なぜアメリカ大統領は演説の最後に必ずGod bless America. と言うのか?がわかりやすく説明されていました。

President Reagan’s Farewell Address to the Nation — 1/11/89

(上の動画の19:05から)I’ve spoken of the shining city all my political life, but I don’t know if I ever quite communicated what I saw when I said it. But in my mind it was a tall, proud city built on rocks stronger than oceans, windswept, God-blessed, and teeming with people of all kinds living in harmony and peace; a city with free ports that hummed with commerce and creativity. And if there had to be city walls, the walls had doors and the doors were open to anyone with the will and the heart to get here. That’s how I saw it, and see it still.

And how stands the city on this winter night? More prosperous, more secure, and happier than it was 8 years ago. But more than that: After 200 years, two centuries, she still stands strong and true on the granite ridge, and her glow has held steady no matter what storm. And she’s still a beacon, still a magnet for all who must have freedom, for all the pilgrims from all the lost places who are hurtling through the darkness, toward home.

(20:14)We’ve done our part. And as I walk off into the city streets, a final word to the men and women of the Reagan revolution, the men and women across America who for 8 years did the work that brought America back. My friends: We did it. We weren’t just marking time. We made a difference. We made the city stronger, we made the city freer, and we left her in good hands. All in all, not bad, not bad at all.

And so, goodbye, God bless you, and God bless the United States of America.
(Citation: Ronald Reagan: “Farewell Address to the Nation,” January 11, 1989. Online by Gerhard Peters and John T. Woolley, The American Presidency Project. http://www.presidency.ucsb.edu/ws/?pid=29650)

 

注目していただきたいのは、「われわれは自分の役割を果たした」という一言である。もし彼とアメリカ国民が「自分の担当部分」(our part)をきちんとやりおおせたのなら、
あとは他にだれが別の『担当部分」をやるのであろうか。 それが、神なのである。(p26)

神を信じて幸福を得るか、神に背いて滅びるかという二分法

30:15 見よ、わたしは、きょう、命とさいわい、および死と災をあなたの前に置いた。
30:16 すなわちわたしは、きょう、あなたにあなたの神、主を愛し、その道に歩み、その戒めと定めと、おきてとを守ることを命じる。それに従うならば、あなたは生きながらえ、その数は多くなるであろう。またあなたの神、主はあなたが行って取る地であなたを祝福されるであろう。
30:17 しかし、もしあなたが心をそむけて聞き従わず、誘われて他の神々を拝み、それに仕えるならば、
30:18 わたしは、きょう、あなたがたに告げる。あなたがたは必ず滅びるであろう。あなたがたはヨルダンを渡り、はいって行って取る地でながく命を保つことができないであろう。
30:19 わたしは、きょう、天と地を呼んであなたがたに対する証人とする。わたしは命と死および祝福とのろいをあなたの前に置いた。あなたは命を選ばなければならない。そうすればあなたとあなたの子孫は生きながらえることができるであろう。
30:20 すなわちあなたの神、主を愛して、その声を聞き、主につき従わなければならない。そうすればあなたは命を得、かつ長く命を保つことができ、主が先祖アブラハム、イサク、ヤコブに与えると誓われた地に住むことができるであろう」。
(旧約聖書 申命記 (口語訳)wikisource.org

著者や、アメリカの歴史は旧約聖書の申命記にみられる二分法、すなわち神を信じて幸せになるか、神に背いて不幸になるかという単純な考え方が始まりになっていると説きます。この「アメリカの精神」は今日に至るまで全く変わらずに存在しており、さまざまな主義主張はこの二分法が前提としてあるのだそうです。

この国と文化のもつ率直さや素朴さや浅薄さは、みなこの二分法を前提にしている。明瞭に善悪を分ける道徳主義、生硬で尊大な使命意識、揺らぐことのない正統性の自認、実験と体験を旨とする行動主義、世俗的であからさまな実利志向、成功と繁栄の自己慶賀ーーーこうした精神態度は、交差も逆転もなく青年のように若々しいこの歴史的理解に根ざしている。二〇世紀アメリカの産物である「ファンダメンタリズム」も、進化論を拒否する「創造主義」も、終末的な正義の戦争を現実世界で実現してしまおうとするアメリカの軍事外交政策も、みなその産物と言ってよい。(p29)

アメリカという国の特徴をなんともあからさまな言葉で完結にまとめていますね。

反知性主義とは何か

知性という言葉や、反なになにという言葉から自分で想像してしまうと、間違った理解になってしまいそうです。あくまで、歴史的な文脈でどのような考え方が生じて、それが何と名づけられたのか、ということを押さえておく必要があります。本書では、植民地時代のアメリカには、ピューリタニズムの極端な知性主義(高度に知性を偏重する社会)があり、それに対する反動として「信仰復興運動(リバイバリズム)」が生じ、反知性主義というのはこのリバイバリズムに付随したものであった、と解説されています。(31~32ページ)。