教員採用試験対策ステップアップ問題集6専門教科高校理科2019年度(東京アカデミー編)に掲載されている三重県の問題で、植物の生活環について問うものがあったのですが、そこに登場する「植物」として、シイタケ、サクラ、アオサ、ワラビ、ゼニゴケ、マコンプ、イネ、アオミドロ、コスギゴケ、クラマゴケの名前がありました。自分はシイタケが植物?シイタケは菌類じゃないの?とびっくりしました。シイタケは植物なのでしょうか?
シイタケは植物か
生き物を何を基準に分類するかによって、個々の生物がどのカテゴリーに振り分けられるかが異なってきます。この分類の基準は歴史的に変遷があります。もともと、全ての生物を「運動するか」、「運動しないか」という基準に基づいて、動くものを「動物」、動かないものを「植物」としてきました。この分類に従えば、シイタケは動きませんから植物ということになります。しかし、マーグリスらは、生物を5つの「界」に分けることを提唱し、彼女は生物を、原核生物界、原生生物界、植物界、菌界、動物界に分けました。つまり、より新しい分類法ではシイタケは菌界に属することになります。これが、自分が、「シイタケが植物?」と思った理由でした。ウィキペディアに分類が載っていますが、菌界とされています。
シイタケ(ウィキペディア)
- 界 : 菌界 Fungi
- 門 : 担子菌門 Basidiomycota
- 綱 : 菌じん綱 Hymenomycetes
- 目 : ハラタケ目 Agaricales
- 科 : キシメジ科 Tricholomataceaeもしくはヒラタケ科 Pleurotaceaeもしくはホウライタケ科 Marasmiaceaeもしくはツキヨタケ科 Omphalotaceae
- 属 : シイタケ属 Lentinula
- 種 : シイタケ L. edodes
学名Lentinula edodes(Berk.) Pegler
和名 シイタケ 英名 Shiitake Shiitake mushroom
ではなぜ高校の生物ではシイタケがいまだに植物なのでしょうか?マーグリスの5界説は高校生物の教科書にも紹介されていますので、シイタケを植物と扱うこの三重県の問題は何年度の出題かはわかりませんがあまり適切ではないような気がします。そのあたりの事情はどうなっているのでしょうか?
義務教育(場合によっては高等教育でも)では菌類は「花の咲かない植物」のひとつとして扱われます。(キノコの生物学 キノコに親しもう 自然環境教育センター 奈良教育大学)
これには驚きました。高校生物と大学以降もしくは世間一般の常識としての生物がこれほど乖離していることがあるんですね。さらに言えば、藻類は植物なのか?という問題もあります。
藻類は植物か
アオサ(ウィキペディア)
- 分類界 : 植物界 Plantaeもしくはアーケプラスチダ Archaeplastida
- 門 : 緑藻植物門 Chlorophyta
- 綱 : アオサ藻
- 綱 Ulvophyceae
- 目 : アオサ目 Ulvales
- 科 : アオサ科 Ulvaceae
- 属 : アオサ属 Ulva
学名 Ulva (Linnaeus, 1753)
和名 アオサ
英名 Sea lettuce
アオミドロ(ウィキペディア)
- ドメイン : 真核生物 Eukaryota
- 界 : 植物界 Plantaeもしくはアーケプラスチダ Archaeplastida
- 亜界 : 緑色植物亜界 Viridiplantae
- 門 : ストレプト植物門 Streptophyta
- 綱 : 接合藻綱 Zygnematophyceae
- 目 : ホシミドロ目 Zygnematales
- 科 : ホシミドロ科 Zygnemataceae
- 属 : アオミドロ属 Spirogyra
学名 Spirogyra
和名 アオミドロ
アオミドロ(水綿、青味泥)は、ホシミドロ目ホシミドロ科アオミドロ属 Spirogyra に属する藻類の総称である。
マコンブ(ウィキペディア)
- ドメイン : 真核生物 Eukaryota
- 階級なし : ディアフォレティケス Diaphoretickes
- 階級なし : SARスーパーグループ Sar
- 上門 : ヘテロコンタ上門 Stramenopiles
- 門 : 不等毛植物門 Heterokontophyta
- 綱 : 褐藻綱 Phaeophyceae
- 目 : コンブ目 Laminariales
- 科 : コンブ科 Laminariaceae
- 属 : カラフトコンブ属 Saccharina
- 種 : マコンブ Saccharina japonica
学名 Saccharina japonica
和名 マコンブマコンブは日本固有種であり、北海道から津軽海峡、岩手県北部にかけて分布するが[1]、中国やロシア、フランス、韓国でも養殖が行われている[5]。
こうなるとウィキペディアを鵜呑みにするのも危険ですので、専門家の説明を見てみましょう。
中1の娘が理科の時間に先生から「藻類が植物ではなくなりました。資料集では植物になっているけど、注意してください。」と言われ、教科書にも「藻類は植物ではない」と書かれています。では藻類はどのような分類になったのでしょうか。
最近広く受入れられている考え方は、「陸上植物、つまりコケ植物、シダ植物、種子植物を植物とする」考え方です。陸上植物は単系統群ですから、これは分類学の考え方によくフィットします。この考え方の下では、すべての藻類は植物ではないことになります。他にも、陸上植物と緑藻類を植物とする考え方、陸上植物、緑藻類、紅藻類、灰色藻類を植物とする考え方などがあります(これらは葉緑体の起源に基づいた考え方です)。これらの場合、植物に含まれない藻類は、シアノバクテリアを除いて大まかに「原生生物(原生動物と藻類を合わせたグループ)」に分類されることになります。(石田 健一郎(筑波大学)回答日:2012-10-17 藻類は植物でない? 日本植物生理学会)
なるほど、分類をどう考えるかというだけの話のようです。問題集の設問は、「陸上植物、緑藻類、紅藻類、灰色藻類を植物とする考え方」に基づいているということなのでしょう。
そもそも、「藻類」って何だっけというところまで疑問がさかのぼってしまったので確認しておきます。
藻類(そうるい、 英語: algae)とは、酸素発生型光合成を行う生物のうち、主に地上に生息するコケ植物、シダ植物、種子植物を除いたものの総称である。すなわち、真正細菌であるシアノバクテリア(藍藻)から、真核生物で単細胞生物であるもの(珪藻、黄緑藻、渦鞭毛藻など)及び多細胞生物である海藻類(紅藻、褐藻、緑藻)など、進化的に全く異なるグループを含む。酸素非発生型光合成を行う硫黄細菌などの光合成細菌は藻類に含まれない。
かつては下等な植物として単系統を成すものとされてきたが、現在では多系統と考えられている。従って「藻類」という呼称は光合成を行うという共通点を持つだけの多様な分類群の総称であり、それ以上の意味を持たない。(藻類 ウィキぺディア)
藻類というまとめかたは、実は非常におおざっぱで多様な生き物を含んでいるということです。分類を考えるときは、何を基準とした分類なのか?にまで気を配ることが大切で、盲目的に暗記することにはもはや何の意味もありません。
種子植物(被子植物と裸子植物),シダ植物,コケ植物,藻類。これらの植物はすべて葉緑
体をもち光合成を行う点で共通している。維管束をもつ種子植物とシダ植物をまとめて維管束植物とよぶこともある。(植物の分類 bunshun.co.jp)
上の問題集では、藻類も植物に含めるという立場に則っていることがわかります。
参考
- 教員採用試験対策ステップアップ問題集6専門教科高校理科2019年度(東京アカデミー編)
- 啓林館 生物 高等学校理科用 平成29年度用
- 植物の分類 bunshun.co.jp
- どうして植物は緑色光を使わないのか?(植物Q&A みんなのひろば 日本植物生理学会)葉が緑色に見えるのは、「葉が緑色光を吸収しないからである」、あるいは、「緑色光は吸収されないのだから光合成には使われない」、とよく言われます。これらは実は正しくありません。 確かに光合成色素のクロロフィルは青色光や赤色光に比べて緑色光を吸収しにくいのですが、吸収がゼロというわけではありません。 … 緑色光の一部は 葉の内部から外に出て行きます。これが反射光です。葉が緑に見えるのはこのためです。… 光が行ったり来たりし、葉緑体に何度も遭遇することで吸収率が上昇するという効果は、緑色光でもっとも大きく、一度葉緑体に遭遇ただけでそのほとんどが吸収されてしまう青色や赤色の吸収率上昇にはあまり役立ちません。これらの結果、通常の緑葉の青色光や赤色光の吸収率が90%程度であるのに対し、緑色光も70〜80%が吸収されるようになります。弱い単色光を用いて測定した、「吸収された光量子あたりの光合成効率」を比較すると、緑色光の効率は赤色光と同程度で、青色光よりも高いことが知られています。このように、緑色光は、緑葉にかなり吸収され、一旦吸収されれば役に立つのです。
- キノコは菌類であり、菌類は植物では無い ‥…という話。そして菌食のすすめ 瀧澤 南海雄 PDF