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和田式受験勉強法 和田秀樹 著『受験学力』を読んで 感想とか読書メモとか

和田秀樹氏が受験の神様として、受験勉強のテクニック関連本を書いているということは知っていたが、読んだことはこれまで全くなかった。今回、『受験学力』を読んでみたら、最初のほうこそ2020年の大学入試改革を辛辣に批判する内容だったが、それ以降は、”和田式”の説明が結構精しく紹介されていたので、和田式受験勉強法がどんなものなのかが初めてわかった。

テクニックに走るバランスの悪い方法なのかと勝手に想像していたのだが、説明を読んだら結構当たり前のことが書いてあって、なーんだ、と思った。また、灘高がどんな学校かもちょこっと触れていて面白かった。自分の目をひいた部分をまとめておく。

和田秀樹氏は東京大学理科3類(医学部)に合格されているそうで、ここに合格するための目安が書いてある。

東大の理科三類に受かりたければ、2月25日の受験日までに、センター試験で9割とって、二次試験で440点中290点とれるようになればいいということである。 (19ページ)

290/440=0.659で、7割弱ですか。当たり前だけど、別に満点を取る必要はないわけです。

大学受験が批判的に語られるときに出てくる言葉が、「受験テクニック」であるが、和田氏はこの言葉を結構広い意味で用いている。

医学部というのは特に、志望校によって、問題の傾向も配点もまったく違う。早めに志望校を決めて、その学校の配点パターンや問題の傾向が自分に合っているかどうかを確認したうえで、過去問をやってみて、合格者の最低点に何点足りないから、どこで点をとって合格しようと戦略をたてるのが、基本テクニック

それって、あまりにも当たり前なことなんじゃないの?と拍子抜けしました。。このような基本的なことも、テクニックと称されています。まあ、ボーっとしている高校生だとそこまで考えが至らない人がいるのかもしれないが、大人ならそう考える以外に何を考えるの?という話です。

たとえば、「二次試験は合格ラインをクリアすればいい」というのは、私が灘校で聞いた目から鱗がおちるような話だった。全国で上から90番までに入らないといけないというのと、多少できない科目があっても合計で3分の2弱とればいいというのでは心理的負担が全然違う。

90番というのは、東大理三の定員が90名ということを指しています。要するに受験に際しては、何番以内にならないと受からないという発想ではなく、何割解ければ受かるのかという発想をしましょうということです。、模擬試験などを受けていれば、ボーダーラインが何割くらいかなというのが見えてくるので、これは自然な発想です。別に誰かを蹴落とさないと自分が合格できないわけではないのですから。オリンピックのように勝者が一人しかいない競技ですら、金メダルをとるような人は、他人を蹴落とすことなど考えもせず、自分がベストのパフォーマンスをして、金メダルが取れる点数を取りにいっていると思います。他人を気にする人は自滅してしまう可能性が高いのではないでしょうか。

数学の勉強方法に関して、示唆に富むことが書いてあります。

私は一言、「数学ができないのなら、さっさと答えをみて覚えたほうがいいよ」と伝えた。「そんなんじゃ実力がつかない」というので、「灘では当たり前にやっている」と返した。この言葉が効いたようで、彼は勉強のやり方を変えたようだった。そして、彼は、なんと東大の理科一類に現役で合格して、東大で再会したのだ。

自分も数学や物理は、うんうんうなって解けるまで考えるべきと思っていたので、さっさと答えをみるんだ?!と意外に思いました。そう言われてみれば、自分が昔通った予備校の先生も「数学は、予習よりも復習に力を入れなさい」とアドバイスをしていました。結局は同じことを言っているんだと思います。まあ、現時点で自力で解けるかどうかを試してみる機会として、予習も大事だとは思うんですが。ちょっと考えて解けないのであれば、それ以上時間をそれに費やさなくてもいいという意味だったのだと思います。

和田式受験勉強法とは

一つは、「目標を偏差値をあげることに置かず、志望校の合格最低点に置く」ことである。 (中略) そこで「志望校の合格者の最低点と、今の自分の学力のギャップを埋める」勉強をする。

二つめが、「勉強時間より勉強量を重視する」ことである。受験勉強というのは、3時間で10ページやった受験生と、5時間で5ページしか進まない受験生では、前者が勝つ。

三つめは、「記憶に定着させることを重視する」ことである。(中略)そこで和田式受験勉強法では、より記憶に残りやすい勉強、復習を実践しているのである。(75ページ)

なんだか完全に拍子抜けするくらいに、当たり前のことが書いてありました(太字の強調は自分)。しかし、これは大人になってるから当たり前に感じるのであって、高校生によっては必ずしも当たり前ではないんでしょうね。これから大学受験をする高校生には是非読んでほしいですね、この和田秀樹氏の著書。こういうアタリマエのまっとうなことがアドバイスされているのであれば、非常に役に立つと思います。受験に限らず、アタリマエのことをアタリマエにできる人が物事をクリアしていくわけですから。

和田式受験勉強法は「目標を志望校の合格最低点に置く」のであるから、受験生はまず志望校を選ばなければならない。

そうでない通常の受験生(私はこんなのは受験生といわないと考えている。志望校が決まっていて、そこに向けて勉強をするのが受験生なのだ)は、予備校や学校にいわれた通りの勉強をして、偏差値が上がったら、それで合格しそうなところから志望校を決める。これでは、志望校を最初から決めている受験生と比べて、試験にでないことをやる無駄が多くなってしまう。

これも、あまりにも当たり前な主張なのですが、驚いたことに、ここで指摘されているような高校生が非常にたくさんいます。え、なぜ今の学力で志望大学を決めてしまうの?なぜ上を目指さないの?と思います。もっと驚くのは、そんな指導をしている高校の先生もいるということです。なぜ志望大学を絞り込んだ勉強を生徒にさせないのでしょうか。そのくせ、学校を挙げて、高い偏差値の大学への進学実績を挙げることに必死になっているのです。そんな学校の意味不明な指導に疑いもせずに従うナイーブな高校生は、大学受験ということに関して言えば、努力を無駄にしていてもったいなく思います。

もしその大学に即した対策をしないで受験したらどうなるか。よほどの秀才でない限り、思うように点数をとれないであろう。よく「東大受かって早慶落ちる」ということがあるが、東大に合格するほどの学力があっても、早慶専願で勉強をしてきた受験生には負ける。(76ページ)

なるほど、と思える指摘です。東大が第一志望の受験者は、他大学に関してはぶっつけ本番で受ける人が多いでしょうから、かなり不利な戦いになります。

和田秀樹氏は多数の著作がありますが、和田式受験勉強法の関しては試行錯誤しながら改善してきたそうなので、買うなら最近の本がいいのかもしれません。初期の本に関しては、多少反省点も述べられていました。

和田式といえば、「数学は暗記だ」という言葉が思い浮かぶくらい話題になりました。数学の勉強を暗記にして東大の理三に入るのか?と自分もこのフレーズを聞いてずっと信じられないと思っていました。しかし、この著書には真意が解説されていて、納得できるものでした。

さて、和田式受験勉強法の中で、よきにつけ、悪しきにつけ私の名を有名にしたのは、やはり「暗記数学」(もしくは「数学は暗記だ!」)という言葉だろう。 (中略) また、前述のように、暗記数学というのは、和田式受験勉強法の中で、単位時間当たりの勉強量を増やすというパートの一方法にすぎないのだが、これに影響をうけたという人は意外に多い。(82ページ)

単位時間当たりの勉強量を増やす”目的での”数学は暗記”であれば、非常に合理的です。受験生が使える時間は非常に限られていますから、一つの問題を2日も3日も考えるよりも、数分考えてできなければ答えをみて、すこし間をおいてから自分で解けるかどうかやってみるというのが効率的でしょう。

和田氏は自分自身の考案した暗記数学についてさらなる考察を加えています。

最終的に暗記数学には三段階あることを発見した。

第一段階は「計算力」である。(中略) そのため、答えを読んで、上の式がなぜ下の式に変形されていくのかが暗算できるので、すぐにわかる。だから、答えが覚えやすかったのだ。

第二段階が「暗記力」である。 (中略) 解答を理解してこそ暗記ができる。これを私は理解型暗記と呼んだのだが、解答が理解できないなら、問題集のレベルを下げ、解答がわかいりゃすいものを選び、前述の計算力のトレーニングを並行して行うことでかなり解決する。

第三段階は、私が「試行力」と呼んでいるものだ。 (中略) あれこれと試して解答にたどり着くのだ。

理解型暗記って、そりゃそうでしょう。数学の問題なのですから。まっとうすぎて、反論の余地ゼロです。こんな暗記数学なら、勉強方法としてお勧めできます。

この本ははじめのほうでは特に2020年の入試制度改革に対する辛辣な批判が繰り広げられていますが、全体としてみればば、和田式勉強法および従来の受験学力を肯定する議論が展開されています。読者対象は、大学入試制度や教育改革に興味がある大人でしょう。これから受験を控えた高校生で、和田式受験勉強法に興味がある人は、他のハウツー本的に書かれたものをお勧めします。

 

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和田 秀樹 著 『受験学力』  (集英社新書) 発売日2017年3月17日