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わかりやすい統計学の教科書、医療統計学、数理統計学、検定と推定

統計学の教科書は何が一番いいのかは自分でも悩みますし、人にお勧めの教科書は何ですかと聞かれることもあります。結局、手持ちのデータがすでにあって解析をただちにしたいのかそれとも理屈を知りたいのかといった目的と、読むのに使える時間と、どのくらい数学的原理的なことから根本的に理解しておきたいかというモチベーションなどによって、最適の一冊が変わってきます。

インターネットに統計学のチュートリアルサイトが多数存在しており、つまみ食い的に必要な情報を得ることができますが、統計学を俯瞰したければやはり定評のある教科書を一冊通読しておく必要があります。一読して全部を理解できなくても、何度も繰り返して読むに値する本を選びたいところです。

オーソドックスな統計学の教科書

数理統計学の教科書(数学寄り)ではなく、普通に実験系の研究者が統計学を勉強するときに役立つ教科書を紹介します。

基本統計学

宮川 公男 基本統計学〔第5版〕  2022/4/1

第5版まで出ていることだけからでも、いかにロングセラーの定評ある教科書であるかがわかると思います。経済学の先生が書いた教科書で、一橋大学での講義経験に基づいていることから、とにかくわかりやすく書かれています。新しい概念を導入するときには必ず具体例から入っており、数学書にありがちな素っ気なさとは無縁です。自分は統計学が苦手でいろいろな本を買って、本棚には統計学の本がずらーっと並んでいる状態なのですが、最初から最後まで通読しようという気になったのはこの本だけでした。読んでいると、著者の講義を受けているような気がしてきます。

 

医学・保健学の例題による統計学

医学・保健学の例題による 統計学』 1982/10/1 豊川 裕之, 柳井晴夫 (編)

  • 豊川裕之 第1章 統計学を学ぶに当たって
  • 丸井英二 第2章 統計データと調査
  • 三宅由子 第3章 記述統計
  • 丸井英二 第4章 相関と回帰
  • 高木廣文 第5章 確率分布
  • 高木廣文 第6章 標本分布
  • 青木繁伸 第7章 検定と推定の考え方
  • 青木繁伸 第8章 検定と推定の実際
  • 柳井晴夫 第9章 実験計画法

本書は、推薦文の説明によると、東京大学医学部保健学科で実施されている統計・情報処理講義演習の内容を整理する形で纏められたものだそうです。図書館で借りて読みましたが、実に丁寧に書かれた教科書でした。統計の教科書は、数学音痴のためにことさらわかりやすさを強調したものが多いですが、この本はそういった最近よく見る統計の本よりもむしろ説明が丁寧でわかりやすい印象を持ちました。

【特徴】古い本のため、プログラミングやエクセルなどで計算することを想定していないのか、手で計算できそうなくらいの親切な説明があり、理解するためにはとても良いと思います。統計学の根本を数学的な原理から理解するための本ではありませんが、数式でもって基本事項を押さえて実際のデータに統計を適用したい人向けの本だと思います。いわゆるコテコテの数学書としての「数理統計学」がカバーすることは他書に譲るとして、この教科書は実際に使う立場で理解しておくべき数学的な説明がなされています。

【わかりやすさ】医学・保健学の例題によるというサブタイトルの通り、医学や保健学からの例題が多数掲載されており、自分が解析したいことが何に相当するのか、同じ例題が見つかりやすいので、適用すべき統計学的手法がどれになるかがわかりやすいです。

【購入】古い本のため絶版になってはいますがアマゾンなどで、古書が低価格で容易に入手可能なので、医学や保健学領域で統計をやる人は手元に置いておくと大変重宝するのではないかと思います。もちろん他分野の人でも統計学をマスターするための教科書として大変勉強しやすい本です。書かれた年代は古いのですが、実にしっかりと丁寧な説明があることに感激して、自分は古書を買いました。

統計学の教科書と言ったときには、実験を行っている研究者がデータの解析をする際に必要となる「検定」を学ぶための統計学の教科書と、数学的な理論の説明を主としていて検定の実際的なやり方に関しては全く言及していないような「数理統計学」の教科書の2つに大別できます。またそれらの折衷版のような本も見られます。つまり、読者は自分の必要性に応じて、教科書を選ばなければならないわけで、統計学を何も知らない人にとっては、自分にぴったり合った教科書を選ぶこと自体が高いハードルになります。

自分が実験をしてデータを得て、有意差の有無を検定したいと思ったときに、大学時代に使った統計学の教科書を開いてみたのですが、どの部分を読んで勉強すればいいのかすらよくわからずに途方にくれました。統計学という学問分野の中身の概略を把握していなかったせいです。

統計学のココロをちゃんと理解したい人のための教科書

完全独習 統計学入門

小島 寛之 完全独習 統計学入門 2006/9/28 ダイヤモンド社

この教科書は、一般的な教科書とは一線を画しています。すでに実験データを得て論文を書くためにデータの統計解析をやりたくてマニュアル的な本を探している人には向いていません。この本の読者対象としてぴったりなのは、いままでいくつかの統計学の本を読んできて勉強しようとしたけれども挫折した人、なんだかモヤモヤしたまま分かった気がしていない人です(つまり自分のような人)。一冊を通して非常に筋道立てて書かれていますが、最終的なゴールは検定量Tの理解とt分布、区間推定になります。多くの研究者がすぐに知りたい、2群間の比較のためのt検定にすら届いていません。2群間比較のT検定すら解説していないのになぜこの教科書を強く勧めたいかというと、分布が既知となるような統計量を作れば検定ができるというカラクリをしっかりと理解できるので、2群間比較といった話を次に聞いたときにすんなり理解できるからです。

しかしながら、統計量Tの数式を見てなぜこんなものを考えるのだろうと悩んだ人には、明確な解答を与えてくれるので、読後の満足感が高い教科書だと思います。検定のための公式のまとめやマニュアルではないかわりに、検定の考え方や区間推定の考え方は身につくと思います。この本を読んでおけば、他のオーソドックスな教科書を読んだときにしっくりとくるでしょう。

この本を読んで自分が一番この本に近い感覚を持った本として思い浮かんだのは、金谷 健一『これなら分かる応用数学教室―最小二乗法からウェーブレットまで』2003/6/1 でした。同じ概念を説明するために繰り返しをいとわずに議論を進めていく感じが同じかなと

多分、数式が大の苦手で数学に自信がないけど、数学的な理解をできるだけしたいという希望を持っている人(つまり自分のような人)の心に刺さる解説なんじゃないかと思います。この本を読んだときにまどろっこしいと感じた人は、きっと数学が得意な人なので、もっとオーソドックスな教科書を最初から読んでもいいんじゃないかと思います。

ホーエル 初等統計学

小島 寛之 完全独習 統計学入門で絶賛されていました。

統計学の考え方を速習して学び種々の手法を俯瞰して実験データで使える統計学的手法をすぐに知りたい人向けの教科書

基礎 医学統計学

加納・高橋 基礎 医学統計学 改訂第6版 南江堂

この本は非常に使い勝手が良いと思います。マニュアルとしても使えるし、勉強のためにも使えます。初めて読む統計の本(特に実験データをすでに持っていて論文を書かないといけない切迫した状況の研究者)としても良いです。手法に関して度忘れしたときにサッと参照したりもしています。なにしろ200ページ弱で、通読可能なページ数です。最低限の数式で説明しているので、文章だけの説明のせいであやふやな理解に留まるという心配もありません。医学系の人には万人に勧められる教科書だと思います。もちろん医学系でない人でも。

数理統計学の教科書

通常の、検定などができるようになるための統計学の教科書というよりも、統計学の数学的な裏付けを解説した数理統計学の教科書というものが多い印象です。

松本裕行・宮原孝夫『数理統計学入門』学術図書出版社(1990年)

この教科書は、120ページと比較的薄い教科書で、紙面も余白がわりとあってスッキリとしていて読みやすく、それでいて、説明は日本語も多用してわかりやすく、数学的にきっちりと説明がなされていくので、とても理解しやすいと思います。定義、定理、証明の繰り返しで構成されているのですが、その途中途中にある日本語の解説がわかりやすいので、ありがちな数学書における堅苦しさや無味乾燥さがなくて、良いです。

統計の教科書がわかりにくい理由は、多くの場合事実を列挙しているだけで、それらの数式や定理がどこから来たのかが説明されていなかったせいなのではないかと思います。「統計学」の教科書ではなく、「数理統計学」の教科書を読めばよかったわけですが、多くの「数理統計学」の教科書は、数学の本になっていて、読むのが困難です。松本裕行・宮原孝夫『数理統計学入門』学術図書出版社(1990年)は、数学的な厳密さと、日本語の説明のわかりやすさ、取り上げる内容の絞り込みのバランスが絶妙で、初学者が勉強していて満足度が高い教科書だと思います。

ジャズピアニストのビル・エバンスが、即興演奏をどうやって学んだらいいかについて解説した動画があります。彼は、誰かの演奏を聞いてその表面的な派手さを真似するのではなく、自分で自分が何を弾いているのかを理解できるくらい基本的なことからまず始めなさいと言っています。この教科書はまさに、統計学の基本事項の徹底理解にうってつけだと思います。

Bill Evans – The Creative Process and Self-Teaching

稲垣宣生数理統計学』裳華房 1990年 (数学シリーズ ) すっきりとした紙面で読みやすい。図書館で借りた。あっさりしすぎていて、統計学を自分の実験データの解析に使おうとする人にはあまりお勧めできませんんが、統計学というものを数学的なベースで統一的に理解したい人にとってはとても良い本(適度な分量)だと思います。

久保川達也現代数理統計学の基礎』共立出版 2017年 統計検定1級合格者のバイブル的教科書らしい。図書館で借りたが、自分はどちらかというともう一つ、統計検定1級合格者の中で愛読した人がいる竹村彰通先生の本のほうがしっくりきて読みやすかった。話の流れを重視(竹)vs.網羅的(久)か、感覚的なものだけど(じっくり読みこんだわけではないので)。