マーティン・ファクラー(Martin Fackler)著 「本当のこと」を伝えない日本の新聞 英語による副題は、Credibility Lost: The Crisis in Japanese Newspaper Journalism After Fukushimaとなっています。
ファクラーさんはニューヨークタイムズ東京支局長。本の出版は2012年7月8日で、双葉社から。双葉新書044。
日本の大手新聞、テレビは日本政府の発表することを垂れ流すだけで、批判的精神が欠落しているため、政府がウソをついたときにその嘘つきに加担することになる、と冒頭から飛ばしています。2011年の福島原発事故の話しから入っていますが、確かにあとのき、自分もインターネットで外国の報道ばかり探していました。日本国内の論調と外交のメディアの報道には非常に大きな温度差があったと思います。
東日本大震災の津波の被害の報道
2011年3月11日午後2時46分、ファクラーさんは東京の有楽町駅前にあるビックカメラの前を歩いていたんだそうです。そこで地震が起こり、事態の重大さを直ちに認識して彼がジャーナリストとしての仕事をしていく過程が描かれています。
Aftermath of the Earthquake in Japan By Zena Barakat | Mar. 11, 2011 | 1:43 Tokyo bureau chief Martin Fackler reports on the huge earthquake and tsunami that hit Japan https://www.nytimes.com/video/world/asia/100000000718996/tc-031111.html
Powerful Quake and Tsunami Devastate Northern Japan
By MARTIN FACKLER Published: March 11, 2011TOKYO — Rescuers struggled to reach survivors on Saturday morning as Japan reeled after an earthquake and a tsunami struck in deadly tandem. The 8.9-magnitude earthquake set off a devastating tsunami that sent walls of water washing over coastal cities in the north. Concerns mounted over possible radiation leaks from two nuclear plants near the earthquake zone. http://www.nytimes.com/2011/03/12/world/asia/12japan.html
For Elderly, Echoes of World War II Horrors
By MARTIN FACKLERMARCH 14, 2011
NATORI, Japan — Hirosato Wako stared at the ruins of his small fishing hamlet: skeletons of shattered buildings, twisted lengths of corrugated steel, corpses with their hands twisted into claws. Only once before had he seen anything like it: World War II.NATORI, Japan — Hirosato Wako stared at the ruins of his small fishing hamlet: skeletons of shattered buildings, twisted lengths of corrugated steel, corpses with their hands twisted into claws. Only once before had he seen anything like it: World War II. http://www.nytimes.com/2011/03/15/world/asia/15elderly.html
In Remote Towns, Survivors Tell of a Wave’s Power
By MARTIN FACKLER and MICHAEL WINESMARCH 15, 2011
MINAMISANRIKU, Japan — Jin Sato, mayor of this quiet fishing port, had just given a speech to the town assembly on the need to strengthen tsunami preparation when the earthquake struck. The tsunami came just over a half-hour later, far exceeding even their worst fears. http://www.nytimes.com/2011/03/16/world/asia/16scene.html
アメリカ軍の救助活動「トモダチ作戦」に同行取材した際に、ファクラーさんは南三陸町にある波伝谷(はでんや)という集落を訪れており、今一番足りないものが薬と燃料だと聞いたそうです。しかし米軍が持っているアメリカの薬で日本で認可されていないものは配布することができず、また日本で認可されている薬であっても、厚生労働省に問い合わせたところ「日本語の説明書がついていなければ配ってはいけない」と言われて怒りが湧いたとのこと。未曾有の大災害のさなかに、このような通常の規則を守らせようとする役人というのは、本当になんのために存在しているのでしょうか?人間の命よりも規則を守ることを大事にするなんて本末転倒もいいところです。
Severed From the World, Villagers Survive on Tight Bonds and To-Do Lists
By MARTIN FACKLERMARCH 23, 2011
HADENYA, Japan — The colossal wave that swept away this tiny fishing hamlet also washed out nearby bridges, phone lines and cellphone service, leaving survivors shivering and dazed and completely cut off at a hilltop community center. http://www.nytimes.com/2011/03/24/world/asia/24isolated.html
ファクラーさんは地震のあとすぐ、被災地を目指して津波の災害に遭った町や村の状況を報道していましたが、3月の終わりくらいからは、福島第一原発の汚染問題に重心を移して取材を進めたそうです。国際原子力機関(IAEA)は、2011年3月18日から26日にかけて福島県飯舘村において調査を行っています。
福島原発問題の報道
Crisis Saddles Village With Unwanted Notoriety
By MARTIN FACKLERAPRIL 5, 2011
IITATE, Japan — The mayor sprang into action the moment he heard that scientists from the International Atomic Energy Agency were in the village hall’s parking lot. He rushed outside to confront the group, three Europeans and a Japanese, who wore surgical masks and cloth booties as they waved around a Geiger counter. http://www.nytimes.com/2011/04/06/world/asia/06village.html記者クラブを拠点にする日本人記者は、市長や市職員、多くの住民がまだくらしているにもかかわらず、南相馬市から逃げ出してしまった。(中略)メディアを使って情報発信する手段を失った桜井市長は、ユーチューブという新しいメディアを利用することにした。記者やカメラマンの手を借りることなく、自らがニュースの発信者としてチャンネルを開いたのだ。(43ページ)
この本はジャーナリズムに関する本ですが、いまや個人がニュースの発信者になれる、すなわち個人がジャーナリストとしての役割を果たすことができる次代です。南相馬市の市長が発したSOSのYOUTUBE動画。
SOS from Mayor of Minami Soma City, next to the crippled Fukushima nuclear power plant, Japan
新メディアであるユーチューブを追いかける形で、紙の新聞であるニューヨーク・タイムズが桜井市長の声を報じた。(ページ43~44)
Japanese City’s Cry Resonates Around the World
By MARTIN FACKLERAPRIL 6, 2011
MINAMISOMA, Japan — It was a desperate plea for help, spoken into a small digital camcorder by the mayor of this seemingly forsaken city, and posted on the Internet like a bottle tossed into a digital sea.http://www.nytimes.com/2011/04/07/world/asia/07plea.html3・11の被災地取材で実感したのは、フリーランス記者や、雑誌・ネットメディアのほうが私と似たような取材をしているという事実だった。日本の大手メディアは、一度クローズアップされた場所を集中して報じる傾向が強い。(47ページ)
日本のマスメディアに関するこのファクラーさんの指摘をみると、ネットで個人が活躍できる時代だと思います。自分で問題意識を持ちさえすれば、上司の許可も必要とせず身軽に行動できるわけですから。
大きな被害を受けた地域の一つである大槌町には「吉里吉里」という地名があるんだそうです。井上ひさしの「吉里吉里人」はここのことだったのですね。復興に際しての吉里吉里の人たちの生活もファクラーさんは記事にしています。
Town Torn by Tsunami Sees Reopened School as a Therapeutic Step
By MARTIN FACKLER MAY 10, 2011
OTSUCHI, Japan — The week before classes resumed, the middle school’s gymnasium was still a makeshift morgue. But the bodies were removed and the floor disinfected, so Kirikiri Middle School could welcome back students for the first time since the tsunami swept away much of this port town.http://www.nytimes.com/2011/05/11/world/asia/11school.html
語句
イリジウム衛星携帯電話
イリジウムとは、宇宙にある人工衛星「イリジウム」を使って通話をすることができる衛星通信の携帯電話サービスです。 イリジウム衛星携帯電話を持っていれば、通信が整備されていない地域等からでも、いつでも、どこからでも、 圏外なしで電話をかけることができます。 『通話エリアは全地球』 ずいぶん前に、まだイリジウムが深夜のテレビCMを放映していたころ、CMで使われて いたキャッチコピーです。「全地球」とは、 その言葉の通り地球上のあやゆるところから利用できるという意味 です。イリジウムは66機もの衛星が地球の周りを取り囲むように配備されていますので、 通常は電話を利用すること ができないような山の頂上や砂漠の真ん中、洋上など宇宙まで電波が届くような見晴らしの良い所なら、 どこにいても利用することができます。 しかし残念ながら、建物の中や地下など無線電波が宇宙に届かない場所からは利用することはできません。 http://www.jdc.ne.jp/mobile/iridium
トモダチ作戦(Operation Tomodachi)
2011年(平成23年)3月11日、日本で発生した東日本大震災(東北地方太平洋沖地震とそれを原因とする災害)に対して行う災害救助・救援および復興支援を活動内容とするアメリカ軍の作戦名。(ウィキペディア)