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解析力学を学ぶための定番の教科書

高校の物理でニュートンの運動方程式を使いこなせるようにさんざん勉強したのに、大学に入ると今度は「解析力学」(Analytical Mechanics)なる科目で力学の勉強することになります。同じような内容を違うようなやり方でもう一度学び直す理由は何でしょうか?大学の授業では、なぜその勉強をするのか、何にどう役に立つのかという動機付けにはほとんど時間が割かれず、いきなりダーッと理論が展開していくことが多いように思います。学生はわけもわからず付いて行こうとするが、どこに連れて行かれるのかもわからないまま脱落する人が大半ではないでしょうか?

高名な先生が無駄のない理路整然とした構成で書いた教科書は、初心者にはとっつきにくく、理解できなくて諦めてしまうのなら買うだけ無駄です。それでも大学でその先生の授業を取っている以上、その教科書に沿って授業が進むため、高いのに無理してでも買わざるを得ないという事情があります。

最近ではようやく、初学者に優しい教科書が書かれるようになってきました。欧米の教科書は昔から、新しい概念の導入に十分な手間ひまをかけたものが多いです。初心者(理系の学生)向けのものから、本格的なもの(物理学科の学生向け)まで、解析力学の教科書を多少主観を交えて紹介します。

* 書籍タイトルは出版社へのリンク、書籍画像はアマゾン商品ページへのリンクです。

馬場 敬之 解析力学キャンパス・ゼミ マセマ出版社 2015年

(はじめに より) 解析力学とは,ニュートン力学をラグランジュの運動方程式やハミルトンの正準方程式により,より一般的に再定式化した力学のことであり,かなり洗練された数学を利用するので,これを難解な力学と感じる方も多いと思います。確かにいきなり一般化座標や一般化運動量を定義して,たたみ込むように数学的な解説をされたら,初めて解析力学を学ぼうとされる方が困惑し途方にくれてしまうのは当然のことだと思います。
ですから,本書ではまず自由落下や単振動(調和振動)や,太陽の周りの惑星の運動など,ニュートン力学で定番の例題を使って,ラグランジュの運動方程式とハミルトンの正準方程式がニュートンの運動方程式と等価なものであることを示すことにしました。これにより,解析力学独特の一般化座標や一般化運動量を利用することの必然性を納得して頂けると思います。
でも,ニュートンの運動方程式と等価であるのなら,何故ラグランジュの運動方程式やハミルトンの正準方程式を持ち出す必要があるのか? 疑問に思われる方もいらっしゃるはずです。それは,ニュートンの運動方程式でさまざまな力学モデルを記述しようとすると複雑すぎて実用的でないことが多いため,これらの方程式を利用する必要があったのです。特に,天体の運動を扱う天文学において,ラグランジュの運動方程式が重用されてきました。
しかし,ラグランジュの運動方程式やハミルトンの正準方程式の重要性はこのことのみにとどまらず,ここで用いられている手法が統計力学や流体力学それに数値解析,さらに量子力学においても重要な役割を演じるからです。つまり,解析力学は多くの物理学のテーマの十字路のような役割を果たしているのです。さらに,応用数学の観点から見ても興味深いテーマが目白押しです。

トピック:ラグランジュの運動方程式 変分原理とオイラーの方程式 仮想仕事の原理とダランベールの原理 ハミルトンの正準方程式の基本 位相空間とトラジェクトリー 正準変換 ポアソン括弧 無限小変換 ハミルトンの正準方程式 量子力学入門

個人的印象:本のフルタイトルは「スバラシク実力がつくと評判の解析力学キャンパス・ゼミ―大学の物理がこんなに分かる!単位なんて楽に取れる!」となっていて、なんだか紹介するのも憚られるのですが、前書きとかサンプルページを見た限りでは、授業は全部サボった、もしくは、授業が何も理解できなかった学生が、数日後に迫った期末試験で単位をとらなきゃいけないという状況に追い込まれているのであれば、この教科書は非常に良い本なのではないかと思いました。

伊藤 克司 解析力学  講談社 基礎物理学シリーズ 2009年

講談社のこのシリーズの特徴:「高校復習レベルからの出発」と「物理の本質的な理解」を両立!独習も可能な「やさしい例題展開」方式!

直交座標と極座標 ラグランジュの運動方程式 一般化座標とラグランジュの運動方程式 N質点系のラグランジアン 一般化座標とラグランジュの運動方程式 保存量 エネルギーの保存 循環座標 運動量の保存 角運動量の保存 対称性と保存則 ラグランジュの運動方程式と束縛条件 束縛条件と一般化座標 時間に依存する束縛条件 加速度系における運動方程式 原点が加速度運動する系における運動 回転座標系における運動方程式 剛体の運動 剛体の自由度 剛体の運動エネルギー オイラー角 対称こまの運動 微小振動 1次元の振動 多自由度系の微小振動 基準振動と基準座標 多自由度の振動 変分原理 オイラー方程式 ハミルトンの原理 束縛条件と条件付き変分問題 一般化座標と一般化運動量 ルジャンドル変換 ハミルトンの正準方程式 変分原理とハミルトンの正準方程式 相空間内での運動 正準変換 ポアソンの括弧式 対称性と保存量 作用と正準変換 ハミルトン-ヤコビの方程式

 

前野昌弘 よくわかる解析力学 東京図書 2013年 

はじめに より) … ある程度わかってから考え直してみると、「ああなんで最初からこういうふうに理解していけなかったのだろう」と悔しくなることがたくさんあった。というわけでこの本は「こういうふうに理解すれば解析力学が『よくわかる』んではないか?」という(かってまるでわからなかった著者の)想いを込めて書かせてもらった。解析力学がわかりにくいものになってしまう原因はいくつかある。… 第二は、「何のためにこれを勉強するのか」というモチベーションが持ちにくいことである。解析力学的手法(本書で扱う、ラグランジュ形式やハミルトン形式)を使わなくても、ある程度力学の問題は解ける。そしてその「ある程度」を超える部分についてはなかなか授業の中では出てこない。そういう状況で「何でラグランジアンだのハミルトニアンだのを考えなくてはいけないの?」と思ってしまうと、勉強するありがたみが湧いてこない。本書では「ほらラグランジアンのおかげでこんな問題が簡単になるよ」という点を具体的に語っていきたいと思う。解析力学の目的は本来「力学を簡単にする」そして「力学に統一的な視点を与える」である。本書を読みながら、「なるほど確かにここが簡単になった」「なるほど力学の世界が明瞭に見えてきた」と実感してもらいたいと思う。正誤表などを含むサポートページ

 

村上 雅人 なるほど解析力学 海鳴社 2016年

(はじめに より) 研究などで壁にぶつかったときには、発想の転換が必要となる場合がある。解析力学は、常識と思っていたことに、別の角度から光をあて、こんなアプローチもあるのだということに気づかせてくれる学問なのである。そのような意味で、とても有用な学問なのである。ファインマン(Richard Feynman)は、解析力学におおいに興味をそそられたという。それは、この学問がニュートン力学とは異なる手法を使っていながら、まったく同じ解を与えるからである。彼は、その不可思議さに魅せられ、最小作用の原理をもとに、量子力学に経路積分(path integral)という独自の解析手法を導入したのである。

変分法とオイラー方程式 汎関数と変分 ラグランジュ未定乗数法 ラグランジアン 最小作用の原理 ラグランジュの運動方程式 惑星運動 仮想仕事の原理 ダランベールの原理 ラグランジアンの導出 広義(一般化)座標 二重振り子 多体系の振動 ハミルトニアン ルジャンドル変換 電磁場と解析学 ローレンツ力 ベクトルポテンシャル  正準変換 位相空間 ポアソン括弧 リウビルの定理 ハミルトン―ヤコビ方程式

個人的印象:この著者による”なるほど”シリーズは、とにかく説明が丁寧で、読者に理解させようという熱意が感じられます。

 

John R. Taylor著  Classical Mechanics  出版社 University Science Books

邦訳はまだないようですが、この本も初心者に非常に親切にわかりやすく書かれています。米アマゾンのレビューには108人の書き込みがあり、その平均が星4.6という高さで、いかに広く読まれていてしかも評判が良いかがわかります。同じ著者による教科書で邦訳されているものとしては、JohnR. Taylor 著 計測における誤差解析入門 東京化学同人 2000年林 茂雄, 馬場 凉 訳 があります。

Newton’s Laws of Motion (ニュートンの運動の法則)
Projectiles and Charged Particles (運動する粒子と荷電粒子)
Momentum and Angular Momentum (運動量と角運動量)
Energy (エネルギー)
Oscillations (振動)
Calculus of Variations (変分法)
Lagrange’s Equations (ラグランジュの方程式)
Two-Body Central Force Problems (2体中心力問題)
Mechanics in Noninertial Frames (非慣性系の力学)
Motion of Rigid Bodies (剛体の力学)
Coupled Oscillators and Normal Modes (結合振動子と固有振動)
Nonlinear Mechanics and Chaos (非線形力学とカオス)
Hamiltonian Mechanics (ハミルトン力学)
Collision Theory (衝突理論)
Special Relativity (特殊相対性理論)
Continuum Mechanics (連続体の力学)

個人的感想:言葉による説明が多いため800ページ近い分厚い本になってしまっているのですが、教科書の堅苦しさが全くなくて、むしろ読み物的な印象があります。新しく式を立てるときの説明など言葉が尽くされていて、日本で古くからありがちな無味乾燥な教科書とは全く異なるスタイルであり、最初開いたときには新鮮な驚きがありました。この本はアメリカの大学で入門的な物理コースをとって、ニュートン力学に関して”nodding acquaintance“(うわっつらの理解)程度がある学生にまずもっている知識に深い理解を与え、さらにそこから発展させるものと前書きで説明しています。そのため日本の典型的な解析力学の教科書では最初に登場する変分法(Calculus of Variations)がこの本では第6章(215ページ~)に位置しています。これも大部になっている理由です。

 

江沢 洋 解析力学 培風館新物理学シリーズ 2007年

極小原理 変分法 Hamiltonの原理 Lagrangeの方程式 Hamilton形式 正準変換 Hamilton-Jacobiの理論

 

久保 謙一 解析力  華房フィジックスライブラリー 2001年

(はしがき より) 本書の目的は,解析力学とは何かを初歩から学びながら,解析力学を使って, 力学の原理を理解し問題を解く 解析力学が,量子力学の入口を聞いた筋道を学ぶことにある.この目的に向かつて,一本の流れに貫かれて書かれている. 流れには,次の4つの山場がある.第1の山は,運動力学を記述する基本要素である,座標(力学変数)の理解である.一般化された座標・運動量が導入され,力学の理論体系への入口をくぐる.第2の山では,解析力学の2大形式;ラグランジュ形式,ハミルトン形式を学ぶ.これを用いて力学の原理と問題を見直し,解き,応用力をつける.解析力学の有効さ,スマートさを実感するであろう.また,空間の認識は,位置的な空聞から位相空間へと発展する.第3の山は,正準変換である.この変換論によって,解析力学が力学理論として飛躍的に発展することを知る.一般化された座標・運動量は,ここに至って,まさに“一般的だ”と改めて実感することになる.第4の山が,量子力学への扉をこじ開ける場面である.正準変換の極端な場合に導かれる方程式が,量子力学の基礎方程式につながっていく不思議さに,かつての量子力学の先駆者たちとの共感を覚えるであろう.ここに至って, (古典)力学から量子力学への飛躍の過程で,解析力学が果たした役割が自ずと見えてくる.以上の内容を著すに当って,常に念頭においたことがある.読者に「わかった」と言ってもらえる,理解できる本にしたいということである.文言で説明しでも難しい事柄は,具体的にはこうだということを,例題と演習問題でわかってもらえるように配慮した.丁寧な解答を付けてあるので,省略せず取り組んで,わかる努力もしてほしい.

標と座標変換 一般化座標 一般化運動量と正準共役変数 一般化された力 ラグランジュ方式 程回転座標系とオイラー角 回転系での運動方程式 変分原理とオイラーの方程式 仮想仕事の原理 作用積分の変分 電磁場のラグランジアン ハミルトニアン ハミルトンの正準方程式 位相空間と運動の軌跡 極座標によるハミルトニアン ポアッソン括弧と保存量 正準変換 位相空間の面積 リュウヴィルの定理 正準変換 正準変換の形式と母関数 正準変換不変量 正準変換の必要十分条件 量子力学への導入 ハミルトン‐ヤコビの方程式 正準共役変換と前期量子論 水素原子の前期量子論 エネルギーの量子化 固有エネルギーとエネルギー素量の関係 量子力学の基礎方程式 古典的波動方程式 シュレーディンガーの波動方程式 ハミルトン‐ヤコビの偏微分方程式からの導出 時間を含むシュレーディンガー方程式 ハイゼンベルクの方程式

 

ネット上のレビューサイトを見てみると、解析力学を初めて学ぶ人向け。手頃な厚さ(薄さ)なので速習向き。古典力学から量子力学への橋渡しとしての解析力学の役割の重要性が強調されているので、学ぶ動機が高められて良い。演習問題の解答が略解でなく詳解になっているので、学習者に優しい。これで解析力学に入門できた後は、本格的な教科書、ランダウとか山本義隆に進むのが良いかもしれない。といった位置づけになっています。

 

原島 鮮 力学 2 解析力学 裳華房 1973年

仮想仕事の原理 変分法 D’Alembertの原理 Hamiltonの原理と最小作用の原理 Lagrangeの運動方程式 正準方程式 正準変換 振動の一般論 3体問題 前期量子論 特殊相対性理論

 

畑 浩之 解析力学 東京図書 基幹講座物理学 2014年

物理学科の学生が習う「解析力学」を想定した半期向け教科書.Lagrangianと最小作用の原理 対称性に基づいたLagrangianの決定 対称性と保存則 拘束のある系の扱い 連成振動 Hamilton形式 正準変換 Hamilton-Jacobi理論 微分形式を用いた記述 場の理論:連続無限個の力学変数の系 古典力学から量子力学へ

ゴールドスタイン, サーフコ, ポール 古典力学〈上〉 吉岡書店 物理学叢書 2006年 古典力学〈下〉 2009年

原著は、Herbert Goldstein, Charles P. Poole, John L. Safko共著 Classical Mechanics 3rd edition 出版社 Pearson Education Limited 2013年 初版は1950年にゴールドシュタイン(Herbert Goldstein, 1922-2005)によって著された。以来、世界的に標準的な教科書として読まれている。第3版はゴールドシュタインの生前、共著者とともに出版された。(参考:Wikipedia)。グーグル検索すれば、646ページにも及ぶ大著(英語)のPDFがネットに転がっているのが読めます。説明が丁寧で、さすがに66年間の長きにわたって世界中の大学で使われている定番の教科書だと思わされます。

 

Cornelius Lanczoshe著 Variational Principles of Mechanics 出版:Dover Books on Physics 

「解析力学と変分原理」という邦訳は絶版のようです。コルネリウス・ランチョス(Cornelius Lanczos)(1893- 974)氏は、ハンガリーの数学者・物理学者(ウィキペディア)。

 

高橋 康 量子力学を学ぶための解析力学入門 増補第2版 (KS物理専門書) 講談社 2000年

Euler-LagrangeおよびHamiltonの方程式 Hamiltonの原理(変分原理) 正準形式の理論 正準変換 Poisson括弧 位相空間 Lagrangianの対称性と物理量の定義

 

山本 義隆, 中村 孔一  解析力学1解析力学2 (朝倉物理学大系) 1998

運動方程式 曲面上の拘束運動 曲面上のテンソルと共変微分 多様体とベクトル場 双対空間と共変テンソル 余接バンドルと微分形式 ラグランジュ形式の力学 ラグランジュ方程式 対称性と保存則 ラグランジュ方程式の幾何学的表現 擬座標とポアンカレ方程式 拘束条件と拘束力 変分原理 ハミルトンの原理 ワイスの原理とネーターの定理 保存系と最小作用の原理 ハミルトン形式の力学 相空間と正準方程式 ハミルトンニアン・ベクトル場 力学系の考察 正準力学系 正準変換 相空間上のハミルトンの原理 積分不変式とカルタンの原理 正準変換――母関数による定義 シンプレクティック写像 正準不変式 ポアソン括弧 1径数正準変換 ポアソン括弧と正準方程式 ポアソンの定理 ポアソン括弧とリー代数 相空間の簡約 ハミルトン-ヤコビの理論 ハミルトン-ヤコビ方程式 ヤコビの定理 力学・光学アナロジー 正準変換にもとづく考察 可積分系 完全可積分系 周期運動と作用変数・角変数 多重周期系の運動 摂動論 定数変化法 ラグランジュの摂動方程式 正準摂動法――フォン・ツァイペルの方法 永年摂動と解の不安定性 リー変換による摂動法 拘束系の正準力学 ディラックの処方 ディラック括弧と相空間の簡約 第1種の拘束量とゲージ変換 相対論的力学 ガリレイの相対性原理 ローレンツ変換 相対論的運動方程式 相対論的解析力学

 

エリ・ランダウ, イェ・エム・リフシッツ 力学 (増訂第3版) ランダウ=リフシッツ理論物理学教程 東京図書 1986年 広重 徹, 水戸 巌 訳

1973年刊の新版による邦訳 運動方程式 保存法則 運動方程式の積分 粒子の衝突 微小振動  剛体の運動 正準方程式

 

木村 利栄, 菅野 礼司 微分形式による解析力学 改訂増補版 吉岡書店 1996

本書の紹介:「マグロウヒル出版」より刊行されていた善著に、その後の拘束力学系の発展を取り入れ刊行。解析力学を導入部から拘束条件(ゲージ変換を含む)のある力学系までも首尾一貫して外微分形式を用いて解説。
外微分形式 変分原理 運動方程式とその生成系 基本1-形式とCartanの原理 正準理論 運動方程式の第1積分 場の理論への拡張 拘束系の力学 ゲージ変換の生成子

関連動画:MITの解析力学の授業 ラグランジュの方程式
MIT 15. Introduction to Lagrange With Examples (Instructor: J. Kim Vandiver)