線形代数の演習書(フロー式)を読んでいたら、行列式の章になって、そこには定義が書かれていたのですが、置換の話から怪しくなり、行列式の定義の式を見せられたところでチンプンカンプンになりました。高校で2行2列の行列の行列式はやりましたが、どんな風に導入されたのかはもはや覚えていません。2行2列ならad-bcという簡単な式なので丸覚えもできますが、3行3列となるともうダメです。それが一般の大きさn次の行列の行列式となると、もう勘弁してという気持ちになりました。
そもそも行列式の定義の解説はこの本では本文で扱わず補遺にまわされているくらいですから、一言の説明で済むほど単純でないのですが、補遺で行数を割いてくれているにも関わらず自分の理解力だとまだ足りなかったようです。
- 高校数学からヤコビアンに至るまで 数学 最終更新日 2019年12月01日 投稿日 2018年04月03日 @bellbind Qiita
- 行列式 ウィキペディア
- ゆるふわ数学【線形代数編】第3講:行列式の性質 高校物理をあきらめる前に チャンネル登録者数 2900人
- 行列式は計量であるという話 noppoman noppoman 2019年12月17日 00:14 note.com
そこでふと思い出したのが、そういえば行列式というタイトルの本を以前買った覚えがあるぞということ。藤原松三郎『行列及び行列式』(改訂版 岩波全書)です。この本では冒頭から12ページを割いて行列式の定義の解説をしていました。歴史的には行列式の理論は、多数の変数からなる連立1次方程式を解くために研究されたものであって、行列の理論よりも先にできたらしいです。へーぇってなもんです。この本をなぜ2年くらいまえに買ったのか忘れましたが、買っておいておいてよかった。ついに陽の目を見る日がきました。改訂版の発行年が1961年です。初版は昭和9年(西暦1934年)で、量子力学が発展して行列の理論が必須になってきたという状況を踏まえて書かれた教科書だそう。実に90年前に書かれた本なんですね。改訂に際して旧字体から新字体に変更されているので、現代に生きる自分にも読むことができます。説明はすこぶる丁寧。数学の教科書って、昔書かれたもののほうが今巷に出回っているものよりもはるかに説明が丁寧なのか?とびっくりしました。
とりあえず2行2列、3行3列の場合を、定義にのっとって書き下してみれば、なんとなくわかったような気になりました。
順列は英語でpermutationなので、
1 2 3 の順列は3!=6個あって、123,132, 213,231, 312, 321がその6個です。
これらのことを一般的な表記として、p(1)p(2)p(3) と書きます。たとえば順列321であれば、p(1)=3, p(2)=2, p(3)=1 です。最初、この表記で躓きました。p(1)って何?状態で思考ストップだったわけです。p(k)とか書かれるともっとわからない。しかし、単に表記方法の決め事なので慣れたらなんてことないです。
さて、行列A=[a11 a12 a13; a21 a22 a23; a31 a32 a33]を考えてみます。行列式の定義は、a1p(1)*a2p(2)*a3p(3)をpに関して和をとってさらに123から置換して得るのに必要な互換(互換というのは、2つの数字だけを相互に入れ替える操作)が偶数なら+、奇数ならマイナスにするのでした。ここでa1p(1)の1とp(1)は行と列の添え字です。定義からわかることは添え字の行の数はそのまま固定して、列の添え字の数が順列に従って変化します。
順列6個は上で書き出したので、行列式の定義に則って行列式の項を書き出してみると(符号はとりあえず後で考える)、
- a11*a22*a33
- a11*a23*a32
- a12*a21*a33
- a12*a23*a31
- a13*a21*a32
- a13*a22*a31
となります。ここで各項の符号を考えます。123,132, 213,231, 312, 321の順列は123の互換を何回施せばいいかというわけですが、
- 123は互換0回なので偶数回、符号は+。
- 132は2と3を互換すればいいので、1回、奇数回なので符号はマイナス。
- 213は1と2の互換の1回、奇数回だから符号はマイナス。
- 231は、123→213→231と互換を2回必要としたので、偶数回なので符号はプラス。
- 312は、123→321→312と偶数回なのでプラス
- 321は、123→321 の奇数回なのでマイナス。
よって、符号も含めて行列式を書けば、
+a11*a22*a33 –a11*a23*a32 –a12*a21*a33 +a12*a23*a31 +a13*a21*a32 – a13*a22*a31
となります。もし行列A=[a b c; d e f; g h i]としたのであれば、行列式det(A)は、
det(A) = aei -afh-bdi + bfg + cdh – ceg
となります。
2行2列の場合もやっておくと、A=[a11 a12; a21 a22] として、順列は12 21 の2つ。12→21の置換は、互換1回なので、項の符号はマイナス。
det(A) = a11*a22 – a12*a21
です。 A=[ a b; c d]と表記するのであれば、
det(A) = ad – bc
で、高校で行列をやった年代の人(自分)にとってはおなじみの式になります。
数学の教科書を読んでいて躓いたらとにかく自分で具体的に書いてみるのがいいという当たり前のことを再認識しました。これはもう面倒臭がらずに習慣化しておくしかないですね。学生時代にちゃんと手を動かしておけばよかった。覆水盆に返らず。後悔先に立たず。
行列式の図形的な意味は、その行列で移った先で、面積や体積が何倍になるかということだそうです。知りませんでした(もしくは忘れていました)。
行列式のもう一つの定義
行列式は上のように定義されることもありますが、帰納的に余因子によって定義する方法もあるようです。n次正方行列Aの行列式は
det A = Σ(i=1 to n) aij * (-1)^(i+j) * (n-1次小行列式)
ここで (n-1次小行列式)は、i行とj列を行列Aから取り除いてできるn-1次行列の行列式のことです。jは1からnまでのどれかで、どれを選んでも結果は同じになります。
n=1 の場合の行列は成分が一つしかないのですが、a11 を行列式とします。
n=2の場合は、A=(a11 a12; a21 a22) として、j=1とすれば、i=1,2に関して和をとることになりますので、
det A = a11 * (-1)^(1+1) * a22 + a21* (-1)^(2+1)*a12 =a11a22 – a21a12
これは、A=(a b; c d) とかいたときには det A = ad-bc というお馴染みの式になっています。
帰納的に行列式を定義することのいいことは、3次の行列の行列式も定義と、2次の行列の行列式をを覚えていれば、それらから求められることです。今
A= (a11 a12 a13;
a21 a22 a23;
a31 a32 a33)として、
det A = Σ(i=1 to 3) aij * (-1)^(i+j) * (2-1次小行列式)
=a11*(-1)^(1+1)*(a22a33-a23a32)
+a21*(-1)^(2+1)*(a12a33-a13a32)
+a31*(-1)^(3+1)*(a12a23-a13a22)
=a11(a22a33-a23a32)-a21(a12a33-a13a32)+a31(a12a23-a13a22)
がもとめる行列式になります。
参考
- 齋藤正彦『線形代数入門』第3章行列式§1置換 §2行列式 §3行列式の展開 p74-p89
自分が学生時代に買っていた『線形代数入門』にしっかりした説明がありました。なにやら鉛筆で下線を引いているところがあったりしたので、自分は大学時代にこのあたりの勉強をしていたようです。完全に忘れていて、まるで生まれて初めて聴いたように今回勉強しました。ちなみにこの本には大学の期末テストの問題用紙がはさまっていました。
一度勉強したことを完全に痕跡も残さずに忘却してしまうのなら、一体勉強することに何の意味があるのでしょうか。最高の暇つぶしにはなりそうです。ボケ防止にも。脳トレ計算問題・高齢者向けの単純な計算なんてやりたくないし。